『いのち・ぼうにふろう』公開50周年

こんにちは。タムラゲン (@GenSan_Art) です。

『いのち・ぼうにふろう』(1971) 監督:小林正樹 原作:山本周五郎 音楽:武満徹 主演:仲代達矢

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

50年前の今日 (9月11日) は、小林正樹の映画『いのち・ぼうにふろう(1971) が公開された日です。

『いのち・ぼうにふろう』の題名表記は、公開時のポスターやDVDのジャケットでは『いのちぼうにふろう』ですが、映画本編のタイトルや小林正樹関連の書籍では中黒が付いています。と言うことは、やはり正式な題名表記は『いのち・ぼうにふろう』ですので、拙記事でもそのように表記します。

 

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『いのち・ぼうにふろう』について

いのち・ぼうにふろう
Inn of Evil
1971年9月11日 公開
東宝・俳優座 提携
東宝 配給
白黒、シネマスコープ、121分

スタッフ

監督:小林正樹
製作:佐藤正之、岸本吟一、椎野英之
原作:山本周五郎「深川安楽亭」より
脚本:隆巴
撮影:岡崎宏三
美術:水谷浩
音楽:武満徹
録音:西崎英雄
音響:本間明
照明:下村一夫
編集:相良久
装飾:荒川大
助監督:吉沢修己
撮影助手:平林茂明
照明助手:松野要
録音助手:高井唯夫
美術助手:菊池誠、薩本尚武
記録:吉田栄子
殺陣:湯浅謙太郎
衣裳:上野芳生
美粧:細野かつら
録音:アオイスタジオ
現像:キヌタラボラトリー
製作主任:篠原茂

キャスト

定七:仲代達矢
おみつ:栗原小巻
おきわ:酒井和歌子
安楽亭主人:中村翫右衛門
八丁堀同心金子:神山繫
与兵衛:佐藤慶
富次郎:山本圭
八丁堀同心岡嶋:中谷一郎
政次:近藤洋介
灘屋の小平:滝田祐介
源三:岸田森
文太:山谷初男
船宿の徳兵衛:三島雅夫
仙吉:植田峻
由之助:草野大悟
夜番勝兵衛:矢野宣
関口銀三
佐伯赫哉
大林丈史
若浅芳太郎
剣睦会
名のない男:勝新太郎

あらすじ

深川吉永町にかかる橋のみで繋がっている島に安楽亭という一膳飯屋が建っています。そこの主人・幾造と娘 おみつ の他に、住み込みの定七、与兵衛、政次、文太、由之助、仙吉、源三という無頼漢が抜荷の仕事をしています。ある日、定七と与兵衛は質屋の奉公人・富次郎を匿います。富次郎は、父親によって女衒に売りとばされてしまった幼馴染みの おきわ を救うための金策に奔走していました。そんな彼を見た安楽亭の無頼漢たちは、若者を助けようと、あえて危険な抜荷の依頼を引受けます。しかし、彼らの行く手には捕手の罠が迫っていました。

 

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『いのち・ぼうにふろう』雑感

久しぶりの小林映画

2017年2月10日(金)、『いのち・ぼうにふろう』を、DVDで初めて鑑賞しました。前年の2016年が小林正樹の生誕100年でしたので、東宝も漸くDVDを発売しました。(それは良いのですが、『日本の青春』(1968) が未だにソフト化されないままなのは解せません。)

DVDを再生するまでは、久しぶりに未鑑賞の小林映画を観れることに胸を高鳴らせていました。私がこれまで鑑賞した映画のリストを調べると、2001年に『あなた買います』をVHSで見たのが最後でしたので、約16年ぶりにもなりました。

さて、肝心の『いのち・ぼうにふろう』なのですが…

うーん、かなり期待していたのですが、小林正樹の時代劇としては不完全燃焼だと思いました。

勿論、良い点も沢山ありました。相模川の現在のあゆみ橋付近の中洲に建てられた深川安楽亭の見事なオープンセットや、英国イルフォード社のフィルムで撮った深みのある白黒シネスコの映像、そして、いつにも増してギラギラした仲代達矢の眼力だけでも一見の価値はあったと思います。

出演者は豪華で、演出も撮影も美術も非常に端正なのに、『切腹』(1962) や『上意討ち -拝領妻始末-』(1967) の監督の作品とは思えないこの違和感は何なのか考え込んでしまいました。

山本周五郎の原作との比較

映像が申し分ないということは、やはり問題は脚本しか考えられません。山本周五郎の作風と小林正樹の演出とでは水と油なのでしょうか。

気になったので、同年12月11日(月)、原作の『深川安楽亭』も読んでみました。隆巴が脚色した『いのち・ぼうにふろう』の脚本は原作に割と忠実なのですが、やはり何点か大きな相違点があります。

先ず、映画では仲代達矢が演じた定七が主人公的存在となっていましたが、原作では安楽亭にたむろする無頼漢の一人という扱いで、むしろ勝新太郎が演じた名も無き客が冒頭から登場していて、富次郎 (山本圭) と並んで物語の大きなウエイトを占めていました。

八丁堀同心の岡島 (中谷一郎) はかなり原作通りですが、もう一人の同心・金子 (神山繁) は映画の創作です。『上意討ち』の浅野帯刀 (仲代達矢) のように、物語を膨らませるためのキャラかもしれません。(そう言えば、岡島が定七に斬られていたが、中谷一郎は『切腹』で仲代達矢に髷を切られ、岡本喜八の『大菩薩峠』でも仲代に斬られていました。)

灘屋の小平の罠で、抜け荷に関わった男達が次々と御用になる展開は同じなのですが、原作では一人だけ逃げ帰るのが定七ではなく与兵衛だったのには少し驚きました。(因みに、「生き仏」という与兵衛の渾名も映画の創作でした。) 映画では定七が主人公として活躍の場を増やされたのは、やはり脚本を書いたのが仲代の妻である宮崎恭子 (ペンネーム 隆巴) だからでしょうか。

映画の終盤では、安楽亭が八丁堀の御用提灯に包囲され富次郎を逃がすために男達が大立ち回りを演じるというクライマックスが展開します。安楽亭の主人の幾造を始め、残りの男達も次々とお縄になります。数日後、荒れ果てた安楽亭に、富次郎が身請けした おきわ (酒井和歌子) と共に訪れて、遠くから おみつ (栗原小巻) が見ているところで映画は終わります。

一方、原作では定七は先に討ち取られ、同心の金子も登場しませんので、安楽亭が包囲される大立ち回りの場面は全くありません。富次郎が おきわ と共に安楽亭から去っていくのは映画も同じですが、安楽亭は元のままなので、与兵衛、政次、源三、由之助は無関心に飲んだり寝たりしている中、幾造と おみつ が見送るというシンプルな幕切れでした。

『上意討ち』もそうでしたが、商業映画としては最後に派手な立ち回りがあった方が盛り上がるかもしれませんが、物語としては原作の『拝領妻始末』や『深川安楽亭』の幕切れの方が破綻なく自然だったと思います。

特に、『いのち・ぼうにふろう』の富次郎は何度も逃亡を企てたり、自殺未遂をしたり、名もない客から金を貰った後も おきわ の所に直行するべきなのに嬉々として安楽亭に引き返したりするなど一々イライラすることばかりするので全く同情できませんでした。富次郎や安楽亭の男達の命知らずの奮闘に共感しにくい脚色が致命的だったのだと改めて思います。

もっとも、場面の順序を入れ替えて良くなった箇所もあります。原作では第三章にあった吉永町の堀端で岡島が勝兵衛から深川安楽亭についての説明を受ける下りを、冒頭に持ってきて安楽亭とその周辺の位置関係を地図を使って具体的に見せていく脚色は『七人の侍』みたいで巧みな導入部でした。こうした感じで本編が続けば遥かに面白くなったのに、と惜しまれます。

白黒映像の美

『いのち・ぼうにふろう』が公開された1971年には、既に劇映画はカラーなのが当たり前となっていました。

長年カラー映画を撮ることを固辞していた黒澤明でさえ前年の1970年には初のカラー映画『どですかでん』を公開しましたので、小林正樹は黒澤よりも長く白黒映画で粘っていたことになります。(『怪談』(1965) はカラー映画でしたが、これは日本の伝統的な美が主題でしたので例外的な作品でした。)

カラー映画に消極的だった理由として、小林は「色が役者の芝居を邪魔してしまう」という自説に加え、「日本の街が汚らしくて」余計にカラーを撮りたがらなかったと語っていました。

前述したように、『いのち・ぼうにふろう』のために、わざわざ英国イルフォード社から取り寄せた白黒フィルムは、通常のカラーフィルムよりも高価で、その白黒映像は通常のフィルムより深みのあるものだそうです。

「…だそうです」と書いたのは、私はDVDでしか観ていないからです。フィルム上映で観てみたいですし、それが叶わないからBlu-rayでも観てみたいです。

ですが、スクリーンには及ばなくても、DVDでの鑑賞でも『いのち・ぼうにふろう』の白黒映像の美しさは、十分に堪能できます。

深川安楽亭のオープンセットの質感や、いつにも増して眼力が凄い仲代達矢のギラギラした存在感は、白黒映像ならではです。

特撮との接点

本題から脱線しますが、『いのち・ぼうにふろう』にも、特撮に縁のある出演者が何人かいます。

定七役の仲代達矢は、数多くの名作に出演しているので特撮映画とは無縁に思えますが、香港映画『妖獣都市 香港魔界篇』(1992) は、ある意味「特撮映画」とも言える珍品でした。それにしても、イタリア映画『野獣暁に死す』(1968) もそうですが、仲代の海外映画出演の基準が謎です(汗)

金子役の神山繫は、『ゴジラVSデストロイア』(1995) に後藤陸将役で出演していました。

与兵衛役の佐藤慶は、『ゴジラ』(1984) には伍堂編集局長役で、今関あきよしの『グリーン・レクイエム』(1988) には松崎貴司役で出演していました。

岡嶋役の中谷一郎は、『空の大怪獣ラドン』(1956) に仙吉役で出演していました。

小平役の滝田祐介は、『ウルトラQ』(1966) 第9話「クモ男爵」には葉山役で、『ウルトラマンティガ』(1996-1997) 第49話「ウルトラの星」には円谷英二役(!)で出演しました。

源三役の岸田森は、特撮ファンの方には説明不要でしょう。『怪奇大作戦』(1968-1969) の牧史郎と『帰ってきたウルトラマン』(1971-1972) の坂田健と『太陽戦隊サンバルカン』(1981-1982) の嵐山大三郎は特に有名です。その他にも、『ファイヤーマン』(1973) には水島三郎役で、『ゴジラ対メカゴジラ』(1974) にはインターポール捜査官・南原役で出演していました。

仙吉役の植田峻は、『人造人間キカイダー』(1972-1973)と『キカイダー01』(1973-1974) の服部半平役の他に、『怪奇大作戦』第21話、『宇宙刑事ギャバン』(1982-1983) 第6話、『宇宙刑事シャリバン』(1983-1984) 第20話、『宇宙刑事シャイダー』(1984-1985) 第21話、『巨獣特捜ジャスピオン』(1985-1986) 第25話、『仮面ライダーBLACK』(1987-1988) 第43話、『仮面ライダー電王』(2007-2008) 第13話・第14話、『ウルトラマンダイナ』(1997-1998) 第24話、『ウルトラQ dark fantasy』(2004) 第16話、『ウルトラマンメビウス』(2006-2007) 第12話に出演しました。

由之助役の草野大悟も特撮には縁があります。『ゴジラ対メカゴジラ』にはブラックホール第3惑星人の工作員・柳川役で、『怪奇大作戦』第5話「死神の子守唄」には吉野貞夫役で、『ミラーマン』(1972) 第32話「今救え! 死の海」にはインベーダー役で、『ウルトラマンA』(1972-1973) 第9話「超獣10万匹! 奇襲計画」には早瀬編集長役で、『ウルトラマンタロウ』(1973-1974) 第49話「歌え! 怪獣ビッグマッチ」には坂本団長(カーン星人)役で出演していました。その他には、『恐竜戦隊コセイドン』(1978-1979) のバンノ・チカラ役や、『スターウルフ』 (1978) 第10話に出演しました。

勝兵衛役の矢野宣は、『ウルトラマン』(1966-1967) 第14話「真珠貝防衛指令」には宝石店主人役の他に、『超光戦士シャンゼリオン』(1996) 第22話にも出演していました。

名のない男役の勝新太郎は、『帝都物語』(1988) では渋沢栄一を演じていました。

端役の大林丈史は、『ウルトラマンレオ』(1974-1975) のブラック指令が特に有名です。他にも、『スパイダーマン』(1978-1979) 第21話、『ウルトラマン80』(1980-1981) 第21話・第30話、『電磁戦隊メガレンジャー』(1997-1998) の川崎博士役、『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003-2004) 第15話・第16話に出演していました。ゴジラ映画では、『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999) の権野と、『シン・ゴジラ』(2016)の 外務大臣・国平修一を演じました。

改めて調べてみると、思った以上に特撮に縁のある出演者が多くて驚きました。脚本に多少の難があるにせよ、拡張高い白黒映像に加えて、こうした個性的な俳優が織りなす演技のアンサンブルが『いのち・ぼうにふろう』を一見の価値ある作品に高めてくれています。

(敬称略)

 

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上映予定

映画で愉しむ――山本周五郎と時代小説の世界
上映期間:2022年3月26日(土) ~ 4月29日(祝・金)
場所:神保町シアター

『いのち・ぼうにふろう』上映予定日
4月9日(土) 11:00 / 18:15
4月10日(日) 15:50
4月11日(月) 14:15
4月12日(火) 11:30 / 18:55
4月13日(水) 16:50
4月14日(木) 11:30 / 18:55
4月15日(金) 16:50

公式サイト : 神保町シアター (shogakukan.co.jp)

 

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参考資料

『深川安楽亭』 山本周五郎、新潮社、1973年

Mellen, Joan. Voices from the Japanese Cinema. Liveright, 1975.

『役者 MEMO 1955-1980』 仲代達矢、講談社、1980年

『キネマ旬報』 1996年12月下旬号、キネマ旬報社

未完。』 仲代達矢、KADOKAWA、2014年

『生誕100年 映画監督・小林正樹』 庭山貴裕、小池智子 編、公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館、2016年

映画監督 小林正樹』 小笠原清、梶山弘子 編、岩波書店、2016年

仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』 春日太一、文藝春秋、2017年

映画監督 小林正樹」 松竹シネマクラシック

DVD『いのち・ぼうにふろう』 東宝株式会社、2016年

 

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