箏曲家であり作曲家の野坂操壽さん (二代目) が、8月27日、急性骨髄性白血病でお亡くなりになりました。享年81歳でした。
野坂さんは、1938年、東京都出身。本名と旧芸名は「惠子」。初代野坂操壽から手ほどきを受け、加藤柔子氏に古典箏曲・地歌三絃を師事。東京藝術大学修士課程修了。1965年の初リサイタル後、1982年まで日本音楽集団団員として活動しました。1969年には二十絃箏を開発、1991年には二十五絃箏を発表しました。1994年より伊福部昭氏に師事。1996年~2006年迄東京藝術大学非常勤講師。2003年には二代野坂操壽 (そうじゅ) を襲名して、2007年以降は全ての演奏活動を「野坂操壽」で行いました。芸術祭奨励賞、芸術祭優秀賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、旭日小綬章、日本藝術院賞など受賞歴も多く、紫綬褒章、旭日小綬章、文化功労者も受章しました。
(参照資料 野坂操壽 Official Website )
襲名後は「野坂操壽」名義で活動していた野坂さんですが、それ以前から野坂さんの活躍に注目していた私にとっては、やはり旧芸名であった本名の「野坂惠子」の方が馴染みがあります。
私が野坂さんを知ったキッカケは、やはり伊福部昭でした。伊福部先生の純音楽に興味を抱き始めた1990年代からCDを手当たり次第に聴き漁り、オーケストラの重厚な響きだけでなく箏曲でも奥深い伊福部音楽の魅力と野坂さんの見事な演奏に惹き込まれました。
私がこれまでに聴いた野坂さんの演奏のCDは次の通りです。
CDタイトル | レコード会社 | 品番 | 発売年 |
伊福部昭「交響的エグログ」 | 東芝EMI | TYCY-5296 | 1993年 |
鬢多々良/伊福部昭 作品集 | カメラータ | 32CM-290 | 1994年 |
伊福部昭 二十絃箏曲 | 東芝EMI | TYCY-5488 | 1996年 |
伊福部昭 協奏三題 伊福部昭作品集2 | フォンテック | FOCD-9087 | 1996年 |
琵琶行~伊福部昭作品集/野坂惠子 | カメラータ | 28CM-558 | 1999年 |
伊福部昭:全歌曲/藍川由美 | カメラータ | 20CM-641~2 | 2001年 |
交響譚詩~野坂惠子リサイタル | カメラータ | 28CM-651 | 2001年 |
鳳凰三連/三木稔 選集 IV | カメラータ | 15CM-223~4 | 2001年 |
伊福部昭の芸術 6 亜 交響的エグログ | キングレコード | KICC-439 | 2003年 |
七ツのヴェールの踊り―バレエ・サロメに依る 伊福部昭 作品集/野坂惠子 |
カメラータ | CMCD-28096 | 2005年 |
明治の唱歌とエッケルトの仕事/ 藍川由美、野坂惠子&小宮瑞代 |
カメラータ | CMCD-28108 | 2006年 |
伊福部昭「協奏四題」熱狂ライヴ | キングレコード | KICC1342~3 | 2016年 |
大島渚の映画『愛のコリーダ』の音楽 (作曲:三木稔) で、二十絃箏を弾いていたのも野坂さんであったことを最近知り、驚きました。
年月日 | 演奏会タイトル | 場所 |
2004年2月29日 | 野坂惠子 演奏会「伊福部昭の箏曲宇宙」 | 北島町立図書館・創世ホール |
2004年9月26日 | 九州交響楽団 久留米公演 | 石橋文化ホール |
2005年4月16日 | 美しい日本のうた ― 明治の「唱歌」から 大正・昭和の「童謡」まで ― |
東京文化会館 小ホール |
2007年3月4日 | 第1回 伊福部昭音楽祭 | サントリーホール |
2014年5月31日 | 現代日本音楽の夕べシリーズ第17回 伊福部昭 生誕100年記念コンサート |
ミューザ川崎シンフォニーホール |
2016年7月10日 | 東京交響楽団 第119回名曲全集 | ミューザ川崎シンフォニーホール |
伊福部先生が卆寿を迎えた2014年に徳島県の創世ホールで開催された演奏会では、偶然にも演奏前に野坂さんと直接お話したことがあります。
開演前に、図書館ロビーで伊福部先生関連の展示を見ていると、後ろから視線を感じたので振り返ると野坂さんが私の方を見ていたので吃驚しました。恐る恐る話しかけてみましたが、野坂さんは想像以上に気さくな方でした。
開演後、初めて聴く野坂さんの生演奏は、言うまでもなく見事なもので、二十五絃箏の格調高い響きに魅了されました。。曲目は、《胡哦》、《蹈歌》、《二十五絃箏甲乙奏合「交響譚詩」》、《二十五絃箏甲乙奏合「七ツのヴェールの踊り」》、《琵琶行》。実の母娘である野坂さんと小宮瑞代 (惠璃) さんが合奏した《交響譚詩》では、二人は息ピッタリの名演でした。
これまで聴きに行った野坂さんの演奏の中で、伊福部先生の大作《二十絃箏とオーケストラのための交響的エグログ》は3回も聴く機会を得ました。
2004年の九州交響楽団 (指揮:円光寺雅彦) 久留米公演、2014年の東響 (指揮:大植英次) 「伊福部昭 生誕100年記念コンサート」、そして2016年の東響 (指揮:井上道義) 「協奏四題」。
どの演奏でも、野坂さんの箏は、長年積み重ねてきた超絶技巧と伊福部音楽に対する深い理解が感じられました。実際に箏を聴くことで、絃の気品ある細やかな響きも体感できました。そう言えば、2016年の「協奏四題」ではただ一人初演時のソリストでもあった野坂さんは、1983年の「協奏四題」でも井上道義・東響と共演していましたし、1992年に井上氏が京都市交響楽団を指揮した《エグログ》も弾いていました。
2016年の「協奏四題」は、私が最後に見た野坂さんの姿となりましたが、最後まで全身全霊で素晴らしい演奏を披露してくださった野坂さんに対する尊敬と感謝の念は尽きません。ご冥福をお祈りいたします。
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