伊福部昭 《ラウダ・コンチェルタータ》 初演40周年

40年前の今日 (9月12日) は、伊福部昭の《オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ》Lauda Concertata per orchestra e marimba (1979) が初演された日です。

伊福部昭 ラウダ・コンチェルタータ Akira Ifukube - Lauda Concertata

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

 

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《ラウダ・コンチェルタータ》について

実は、《ラウダ・コンチェルタータ》は、木琴奏者 平岡養一のサンフランシスコでの演奏のために委嘱された曲でした。そのため、当初は木琴と管絃楽のための曲として書かれました。1976年7月19日に曲は完成しましたが、何故か平岡によって演奏されることはありませんでした。数年後、新星日本交響楽団 (現在は東京フィルハーモニー交響楽団と合併) の運営委員長であった池田鉄の依頼を快諾した伊福部は、眠っていた《ラウダ》をマリンバ用に改作しました。こうして、1979年9月12日、新星日響の創立10周年記念演奏会 (東京文化会館) で、山田一雄の指揮と安倍圭子のマリンバによって《ラウダ》は遂に初演されました。

伊福部は初演のプログラムに次のように書いていました。「ラウダ・コンチェルタータとは、司伴楽風な頌歌と云う程の意ですが、この作品では、マリムバとオーケストラとの協奏の形がとられています。ゆるやかな、頌歌風な楽案は、主としてオーケストラが受けもち、マリムバは、その本来の姿である打楽器的な、時に野蠻にも近い取扱いがなされています。この互に異なる二つの要素を組み合わせること、言わば、祈りと蠻性との共存を通じて、始原的な人間性の喚起を試みたものです」

伊福部の言葉に集約されているように、《ラウダ・コンチェルタータ》の魅力は、西洋のオーケストラによる荘厳な響きと、アフリカ起源の打楽器マリンバによる素朴で力強い響きの絡み合いに尽きます。特に、オーケストラとマリンバが互いに盛り上がりながら迎える爆発的なコーダは、《リトミカ・オスティナータ》と並んで最も熱狂的な伊福部音楽の一曲と言えます。

評論家の片山杜秀が「伊福部昭の《春の祭典》」と形容するように、《ラウダ・コンチェルタータ》は伊福部音楽の中でも際立ってシャーマニズム的な要素を強く感じます。事実、曲名が決定するまでは、《古代の頌歌》や《シャーマン頌歌》などの仮題を伊福部は楽譜に記していたそうです。1920年代、小学生だった伊福部はアイヌの人々と交流してアイヌの文化に親しみました。又、15歳のときには、ストラヴィンスキーの《春の祭典》を聴いて直感的にアジア的な美観の共通点を覚えて作曲を始めたそうですから、伊福部がシャーマニズム的な要素に満ちた曲を書くのは必然的だったのかもしれません。(事実、1993年のベルリンでの演奏では、現地紙に「富士の裾野のストラビンスキー」と評されたそうです。)

《ラウダ・コンチェルタータ》の初演を成功させた山田一雄と新星日響は、翌1980年には同じく伊福部の《日本狂詩曲》で再び聴衆を熱狂させました。第二次世界大戦後、伊福部音楽は日本の楽壇では長らく冷遇されてきましたが、1970年代も終わりに来ると、「今まで筋肉のない音楽ばかり聴かされて、そんなものにつきあっていられないと思う人たちが迎えてくれた」と伊福部が言うように、無味乾燥な十二音音楽や無調音楽の呪縛から解き放たれた人達によって、伊福部音楽は漸く陽の目を見るようになりました。

池田鉄は、不運にも1980年の交通事故で急逝してしまいましたが、彼の依頼によって復活の機会を得た《ラウダ・コンチェルタータ》は伊福部昭の再評価への機運を高める役割を果たしました。

 

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個人的鑑賞記

CD、DVD、YouTube

これまで私がCDなどで聴いた《ラウダ・コンチェルタータ》の演奏は次の通りです。

  演奏年月日 指揮者 マリンバ オーケストラ 媒体
1979年9月12日 山田一雄 安倍圭子 新星日本交響楽団 CD
1990年1月13日 岩城宏之 安倍圭子 東京都交響楽団 CD
1990年6月6日 山田一雄 安倍圭子 新星日本交響楽団 YouTube
1993年9月7日 石井眞木 安倍圭子 新交響楽団 CD
2006年6月17日 大井剛史 平岡愛子 福井交響楽団 DVD
2015年12月8日 岩村力 塚越慎子 読売日本交響楽団 CD
2016年3月 クリスチャン・
マンデアル
ボグダン・
バカヌ
ルーマニア
国立交響楽団
CD
2016年5月24日 大友直人 大茂絵里子 愛知県立芸術大学
祝祭管弦楽
YouTube
2016年7月10日 井上道義 高田みどり 東京交響楽団 LIVE、CD
不明 不明 安倍圭子 不明 YouTube

ウィンドアンサンブル版

演奏年月日 指揮者 マリンバ 吹奏楽 媒体
1997年9月 金洪才 山口多嘉子 東京佼成
ウインドオーケストラ
CD
2011年2月27日 寺島康朗 金丸寛 アミューズ・
ウィンド・オーケストラ
YouTube
不明 マイケル・
ベッカー
カーセイジ
ウィンドオーケストラ
YouTube

※⑫⑬のような比較的最近の演奏ではトライアングルか鉄琴のような楽器が追加されていて何か違和感を覚えます。吹奏楽版のみのアレンジかと思いきや、⑩のオーケストラ版でも原曲には無い楽器が追加されていたのは何故なのでしょうか?

ピアノリダクション版

演奏年月日 マリンバ ピアノ 媒体
2019年10月22日 沓野勢津子 田島ゆみ YouTube

言うまでもなく、これらはほんの一部で、実際には《ラウダ・コンチェルタータ》は、もっと多く国内外で演奏されています。ともあれ、こうして並べてみただけでも意外と多くの音源を聴いてきたと思います。

ただ、振り返ると、《ラウダ》のCDは伊福部昭の没後も①④⑪のみという状況が長く続いていました。やはり転機となったのは、先生の生誕100年であった2014年頃だったと思います。②のCD化のみならず、③⑧⑩⑭のようにYouTubeで新旧の演奏が聴けるようになったのも時代の変化を感じさせます。更に、先生の没後10年となる2016年の前後には、⑥⑦⑧⑨のように新たな演奏や録音が国内外で相次ぎました。

私が初めて聴いた《ラウダ・コンチェルタータ》の演奏は、フォンテックのCD「伊福部昭|交響作品集」に収録された①の初演のライヴ録音でした。1992年の名著『伊福部昭の宇宙』(音楽之友社) で、伊福部昭の純音楽作品にも興味を持ち、前述のCDで《日本狂詩曲》と共に《ラウダ》の熱狂的なエネルギーに魅せられました。それまでは『ゴジラ』や『座頭市物語』などの映画音楽しか知らなかった私でしたが、このCDだけで一気に伊福部音楽にのめり込んでいきました。

初演以外の演奏では、②の岩城宏之と伊福部音楽という珍しい組み合わせや、⑦のルーマニアでの演奏も名演だと思います。⑦のソリストを務めたルーマニア出身の世界的マリンバ奏者ボグダン・バカヌが師事していた人物が2002年に都響と共に《ラウダ》を演奏する筈だったペーター・サドロだったというのも面白い偶然だと思います。

生演奏

現時点で私が聴いた《ラウダ》の生演奏は、⑨の2016年7月10日(日)、ミューザ川崎シンフォニーホールにて開催された東京交響楽団「名曲全集 第119回<前期>」のみです。指揮は井上道義。マリンバは高田みどり。 (「念願の伊福部昭「協奏四題」!(ミューザ川崎シンフォニーホール)+川崎での特撮体験談」 2016年6月12日)

東京交響楽団 名曲全集 第119回 ミューザ川崎シンフォニーホール 伊福部昭 協奏四題 井上道義
本来なら、2002年9月4日の都響スペシャル「日本音楽の探訪」シリーズ第1回(東京芸術劇場)で聴ける筈でしたが、直前に曲目変更となってしまいましたので14年ぶりに願いが叶ったことになります。
ポスターに「道義念願のオール伊福部プログラム「協奏四題」」とあるように、井上道義と東響が1983年に演奏した伊福部昭の協奏曲4曲を再演するという意欲的な企画でした。

東響の奏者に続いて、マリンバの高田みどり登場。拍手。井上道義も登場して、すぐに演奏を開始しました。実は、私が井上道義が指揮する姿を見るのも、このときが初めてでした。指揮棒を持たずに両手を滑らかに振る井上の指揮は自由なようで無駄な動きが無く、要所要所で各奏者にきびきびと的確に指示を出していました。

過去に井上道義が指揮した伊福部音楽は最速の部類でしたが、このときの《ラウダ》は特に速すぎることもなく、緩急のメリハリある展開でした。高田みどりのマリンバも堅実な演奏で、安倍圭子の取り憑かれたかのような熱狂的なマリンバは別格にしても、十分に《ラウダ》の魅力を引き出していたと思います。

終盤のミニマル音楽的な盛り上がりも最高潮に達して、ズバッ!と決まり、満場の拍手。高田みどりが舞台の袖に下がった後も鳴り止まぬ拍手。何度も舞台に戻って喝采を浴びていました。


初演から40年経った今もなお国内外で演奏され続けている《ラウダ・コンチェルタータ》は、これからも多くの人達を興奮させていくことでしょう。

(敬称略)

 

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2020年の演奏予定

岩見玲奈×大嶋浩美 ジョイント・リサイタル
日時:2020年12月12日(土) 13:30開演
会場:小杉放菴記念日光美術館 エントランスホール
          栃木県日光市山内2388-3

小杉放菴記念日光美術館にて、来館または電話予約。
10月23日(金)から受付開始(定員に達し次第〆切)
※新型コロナウィルス感染症の感染予防・拡大防止のため、再延期または中止になる場合があります。

展覧会・催し物|小杉放菴記念日光美術館
小杉放菴記念日光美術館では、「自然へのいつくしみ」を基本テーマに、日光市の名誉市民である画家・小杉放菴の画業を御紹介するとともに、この画家を育んだ近代の日光における、さまざまな文化的事象について考察することも目標としています。

 

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参考資料

『伊福部昭の宇宙』 相良侑亮 編、音楽之友社、1992年

『伊福部昭・タプカーラの彼方へ』 木部与巴仁、ボイジャー、2002年

完本 管絃楽法』 伊福部昭、音楽之友社、2008年

伊福部昭綴る 伊福部昭 論文・随筆集』 伊福部昭、ワイズ出版、2013年

伊福部昭 ゴジラの守護神・日本作曲界の巨匠』 片山杜秀 編、河出書房新社 2014年

CD 「伊福部昭|交響作品集」 フォンテック、FOCD3222

CD 「新交響楽団・伊福部昭 傘寿記念」 ユーメックス、TYCY-5424/25、1995年


CD 「伊福部昭の管絃楽」 フォンテック、FOCD9638/9、2014年


CD 「伊福部昭「協奏四題」熱狂ライヴ」 キングレコード、KICC1342/3、2016年


CD  Lauda Concertata Works by Emmanuel Sejourne and Akira Ifukube, GENUIN classics, GEN16441, 2016


CD 「伊福部昭:ラウダ・コンチェルタータ セジョルネ:マリンバ協奏曲」 オクタヴィア・レコード、OVCC-00135、2016年

《ラウダ・コンチェルタータ》」 – 伊福部昭データベース

伊福部昭: オーケストラとマリムバの為のラウダ・コンチェルタータ 今尾恵介(打楽器)」 – アマチュアオーケストラ新交響楽団

伊福部昭(1914-2006) オーケストラとマリンバのための「ラウダ・コンチェルタータ」(1979) 作曲家 藤田崇文 」 – 芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカ

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