伊福部昭《管絃楽のための「日本組曲」》初演30周年

こんにちは。タムラゲン (@GenSan_Art) です。

伊福部昭 《管絃楽のための「日本組曲」》 Akira Ifukube's Japanese Suite for Orchestra

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

30年前の今日は、伊福部昭の《管絃楽のための「日本組曲」》が初演された日です。

伊福部が19歳のときに完成させた《ピアノ組曲》(1933) を、77歳となった1991年に自ら管絃楽曲に編曲した作品です。1991年9月17日、井上道義指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団によって初演されました。

 

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《管絃楽のための「日本組曲」》について

《ピアノ組曲》の誕生

先述のように、《管絃楽のための「日本組曲」》の原曲は、《ピアノ組曲》です。1933年、当時19歳だった伊福部と友人の三浦淳史(後の音楽評論家)は、アメリカ人ピアニストのジョージ・コープランドのレコード「スペイン音楽集」に感銘を受けました。スペイン在住だったコープランドに三浦が手紙を出した後、コープランドから曲を所望する返信が届いたので、伊福部が作曲したのが《ピアノ組曲》です。その楽譜をコープランドに送付した後、彼から曲を賞賛する返信は届きましたが、実際に演奏されたかは不明です。

その後、《ピアノ組曲》は、アレクサンドル・チェレプニンによってユニヴァーサル、シャーマー等から出版され、1938年にはヴェネチア国際現代音楽祭で入選しました。現在は、全音楽譜出版社から楽譜が入手可能です。

《ピアノ組曲》は、次の4曲で構成されています。

第1曲「盆踊」 BON-ODORI, Nocturnal dance of the Bon-Festival
第2曲「七夕」 TANABATA, Fête of Vega
第3曲「演伶 (ながし)」 NAGASI, Profane minstrel
第4曲「佞武多 (ねぶた)」 NEBUTA, Festal ballad

伊福部によると、西洋の組曲は舞曲を並べるのが一般的なので、日本の祭りや芸能から盆踊り等を並べたとのことです。

第4曲「佞武多」は、1932年、大学時代の夏休みに友人に連れられた伊福部が弘前近辺の大鰐町で見物した弘前ねぷたがモデルです。余談ですが、伊福部は弘前ねぶた を見た後、香川県丸亀市まで行き、金比羅宮や屋島なども訪れたそうです。

管絃楽版への変容

1991年、伊福部昭は、サントリー音楽財団の委嘱により《ピアノ組曲》を管絃楽版に編曲して曲名も「日本組曲」としました。同年9月17日、サントリーホールで開催された「作曲家の個展’91 伊福部昭」にて、井上道義指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団によって初演されました。

曲の構成は《ピアノ組曲》と同じですが、既に管絃楽法の巨匠となっていた77歳の伊福部によって、より重厚な響きを伴った大曲となりました。

編成は次の通りです。ピッコロ、フルート2、アルト・フルート、オーボエ2、コール・アングレ、変ロ管クラリネット2、変ロ管バス・クラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン2、バス・トロンボーン、テューバ、ティンパニ、打楽器奏者4人(トムトム3、コンガ3(バチ使用)、キューバン・ティンバレス、吊りシンバル、チェレスタ、大太鼓、タムタム)、ハープ、絃楽5部。

楽譜は、1997年に全音楽譜出版社から出版されました。

その後も、伊福部は「日本組曲」を異なる編成に編曲して、《二面の二十五絃箏による「日本組曲」》(1991) と、《絃楽オーケストラのための「日本組曲」》(1998) が出来ました。

 

 

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個人的鑑賞記

「日本組曲」

これまで私が演奏会やCDなどで聴いた《管絃楽のための「日本組曲」》の演奏は次の通りです。(演奏された順に並べましたので、私が聴いた順序は異なります)

演奏日 指揮者 オーケストラ 媒体
1991年9月17日 井上道義 新日本フィルハーモニー
交響楽団
CD
1994年7月23日 小林研一郎 新交響楽団 CD
1995年 広上淳一 日本フィルハーモニー
交響楽団
CD
2007年3月4日 本名徹次 日本フィルハーモニー
交響楽団
LIVECD
2019年3月24日
「盆踊」「七夕」「佞武多」
井上道義 千葉県少年少女
オーケストラ
YouTube
2019年5月1日
「盆踊」
久世武志 TBSK管弦楽団 YouTube

初演から30年も経つのにCDが4枚のみとは意外ですが、伊福部昭の生誕100年や没後10年の頃から各地で演奏される機会が増えてきた印象があります。

現時点で私が《管絃楽のための「日本組曲」》の実演奏を聴いたのは、第1回目の「伊福部昭音楽祭」のみです。

「伊福部昭音楽祭」は、伊福部が他界した翌年に開催された追悼的な演奏会です。2007年3月4日、サントリーホールにて開催されました。

2004年の卆寿記念演奏会と同じく、指揮は本名徹次で、管絃楽は日本フィルハーモニー交響楽団でしたが、急遽企画された企画のせいか演奏が十分にこなれていない感じでした。

《日本組曲》の「佞武多」が終結部で突如、猛烈な速度で終わったのには唖然としました。卆寿記念演奏会のときは、アンコールという高揚した状況でしたので高速演奏も許容範囲内でしたが、全曲をじっくり聴かせる演奏では場違いということが明らかになってしまいました。

野坂惠子 (操壽) と小宮瑞代による《二十五絃箏甲乙奏合 交響譚詩》と、藍川由美による《アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌》が名演でしたのに、CD未収録だったのも残念でした。

《管絃楽のための「日本組曲」》の演奏で、私が一番好きなのは、小林研一郎指揮/新交響楽団による演奏です。「炎のコバケン」による勢いに満ちた伊福部サウンドの高揚感は最高です。

《ピアノ組曲》

因みに、《ピアノ組曲》の方は意外と聴く機会が多かったです。演奏者が一人であることと、4曲の中から数曲を抜粋して演奏できるからかもしれません。

演奏年月日 ピアニスト 会場 媒体
1990年12月10日 堀陽子 イイノホール CD
1993年5月1日 遠藤郁子 東京文化会館 CD
2004年2月28日
「盆踊」
木須康一 北島町立図書館 創世ホール
多目的ホール
LIVE
2006年12月12日 岡田将 東京オペラシティ
リサイタルホール
TV
2007年1月26日
「佞武多」
矢野温子 旧香港上海銀行長崎支店記念館
多目的ホール
LIVE
2008年8月20日 山田令子 ニコールス コンサートホール CD
2014年7月6日
「盆踊」「七夕」「佞武多」
岡田知子 サンポートホール高松 LIVE
2016年11月5日 河合丈則 公園通りクラシックス YouTube
2017年8月11日 江川智沙穂 電気文化会館
ザ・コンサートホール
YouTube

 

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時代を超えた生命力

第1曲「盆踊」と第4曲「佞武多」は、ピアノ版をはじめ、管絃楽版、二面の二十五絃箏版、絃楽オケ版のどれも素晴らしいですが、重厚なオケの響きと、身体を揺さ振る律動の勢いは、やはり管絃楽版が最も迫力があります。

全体的に私が好きなのは管絃楽版ですが、第2曲「七夕」に限っては、二面の二十五絃箏版が一番です。箏の雅な響きが七夕の夜によく似合います。

振り返れば、伊福部が存命の頃、《ピアノ組曲》は難曲な上に、民族的な響きが「恥ずかしい」という理由で、演奏されることもなく録音も無いという状況が長く続いていました。伊福部が再評価されてきた頃に書かれた《管絃楽のための「日本組曲」》も、同様に敬遠されていたそうです。

明治以降、日本の音楽界では西洋を規範としてきましたので、東アジアの民族的な作風が色濃い伊福部昭の音楽が長い間冷遇されていました。特に《ピアノ組曲》や《日本狂詩曲》など初期の伊福部作品には日本の祭りなどの素材の音型が生々しく出てくる特徴がありましたので、日本のクラシック音楽界では余計に受け入れられなかったのかもしれません。

ですが、異国情緒を狙った民族主義とは異なり、伊福部が作品に取り入れた盆踊りやねぷたの響きは、作曲家が直に接してきた生活の一部であり、借り物ではない真の生命力に満ちています。事実、無調音楽や十二音音楽が衰退していった1970年代後半から伊福部昭の音楽が急速に再評価されていきました。

《ピアノ組曲》を管絃楽曲に編曲する際、伊福部は自分が19歳のときに考えていたことが77歳だった当時とは「愕然とするほど違う」と思ったそうですが、初演後には以前と全く同じ作風なので「ガンコ一徹は稀有のもの」と新聞批評に書かれたと自虐気味に語っていました。もっとも、朝日新聞に批評を書いた間宮芳生は「日本組曲」を含めて「作曲家の個展’91 伊福部昭」で演奏された伊福部の作品を絶賛していました。例の「ガンコ一徹」も、19歳で既に確立していた作風の完成度が晩年に至るまで一貫していたという非常に好意的な意味で書かれていました。

《ピアノ組曲》や《管絃楽のための「日本組曲」》が頻繁に演奏されるようになってきたのが伊福部昭の没後ということに複雑な気持ちはありますが、作品が広く聴かれるようになってきたことは素直に嬉しく思います。

伊福部昭の原点であり、卓越した管絃楽法の見本でもある《管絃楽のための「日本組曲」》は、ようやく正当な評価を得るようになったのだと思います。

(敬称略)

 

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2021年の演奏予定

おとふけ120年の歩みと伊福部昭

日時:2021年10月17日(日) 14:00開演
会場:音更町文化センター 大ホール
※《ピアノ組曲》と《日本組曲》「盆踊」「七夕」「佞武多」
URL (音更町):https://www.town.otofuke.hokkaido.jp/kyoiku/oshirase/otofuke120.html

 

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参考資料

著書

伊福部昭:ピアノ組曲』 伊福部昭 編著、全音楽譜出版社、1969年

「不変の様式の先駆性に驚き 伊福部昭個展」 間宮芳生・著 『朝日新聞・夕刊』1991年9月25日

『伊福部昭の宇宙』 相良侑亮 編、音楽之友社、1992年

『伊福部昭・音楽家の誕生』 木部与巴仁、新潮社、1997年

『伊福部昭・タプカーラの彼方へ』 木部与巴仁、ボイジャー、2002年

『伊福部昭・時代を超えた音楽』 木部与巴仁、本の風景社、2004年

完本 管絃楽法』 伊福部昭、音楽之友社、2008年

伊福部昭綴る 伊福部昭 論文・随筆集』 伊福部昭、ワイズ出版、2013年

伊福部昭 ゴジラの守護神・日本作曲界の巨匠』 片山杜秀 編、河出書房新社 2014年

CD

CD「伊福部昭 室内楽作品集」 東芝EMI TYCY-5369・70、1994年

CD「伊福部昭 作曲家の個展」 fontec、FOCD3292、1995年

CD「新交響楽団・伊福部昭 傘寿記念」 東芝EMI、TYCY-5424/25、1995年

CD「伊福部昭の芸術 2 響 – 伊福部昭 交響楽の世界」 キングレコード、KICC176、1995年

CD「伊福部昭 二十絃箏曲」 東芝EMI TYCY-5488 1996年

CD「伊福部昭 室内楽作品集」 ミッテンヴァルト、MTWD-99009、2002年

CD「伊福部昭 ギター作品集」 ミッテンヴァルト、MTWD-99019、2004年

CD「豪快な大戸島」 秘密結社不気味社、G.R.F.014、2004年

CD「伊福部昭の芸術 9 祭 – 伊福部昭音楽祭ライヴ」キングレコード、KICC662/63、2007年

CD「伊福部昭ピアノ作品集 第一集」 ゼール音楽事務所、ZMM0812、2008年

CD「伊福部昭 作品集」 fontec、FOCD9531-32、2011年

ウェブサイト

管絃楽のための「日本組曲」》 – 伊福部昭データベース

ピアノ組曲》 – 伊福部昭データベース

ピアノ組曲(日本組曲)」 – 「インチキ教授のホームページ

第2回 「伊福部作品を語る」(戦前編)」 – 後の祭

第8回 「キングレコードの伊福部昭作品集について」」 – 後の祭

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