『空の大怪獣ラドン』4Kデジタルリマスター版(午前十時の映画祭12)

こんにちは。タムラゲン (@GenSan_Art) です。

『空の大怪獣ラドン』 4Kデジタルリマスター版 1956年 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 音楽:伊福部昭 出演:佐原健二、平田昭彦 | RODAN (1956) Directed by Ishiro Honda | Music by Akira Ifukube

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

今日は、イオンシネマ宇多津にて、『空の大怪獣ラドン』4Kデジタルリマスター版を鑑賞しました。「午前十時の映画祭12」の企画です。

 

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『空の大怪獣ラドン』について

空の大怪獣ラドン
Rodan
1956年12月26日 公開
東宝株式会社 製作・配給
カラー、スタンダード、82分

スタッフ

製作:田中友幸
監督:本多猪四郎
原作:黒沼健
脚本:村田武雄、木村武
撮影:芦田勇
美術:北辰雄
録音:宮崎正信
照明:森茂
音楽:伊福部昭
特技監督:円谷英二
特撮:渡辺明、城田正雄、向山宏、坂本泰明
監督助手:福田純
編集:岩下広一
音響効果:三縄一郎
現像:東洋現像所
製作担当者:眞木照夫

キャスト

河村繁:佐原健二
キヨ:白川由美
西村警部:小堀明男
柏木久一郎:平田昭彦
南教授:村上冬樹
若い女:中田康子
大崎所長:山田巳之助
井関記者:田島義文
お民:水の也清美
葉山助教授:松尾文人
捨やん:如月寛多
須田技師長:草間璋夫
常さん:河崎堅男
水上医師:高木清
航空自衛隊司令:三原秀夫
砂川技師:今泉廉
仙吉:中谷一郎

あらすじ

阿蘇付近の炭鉱の坑道内で謎の出水事故が発生して、何物かによって炭鉱夫が何人も殺害されます。行方不明になった炭鉱夫 五郎が疑われますが、真犯人は巨大な古代トンボの幼虫 メガヌロンでした。警察と自衛隊はメガヌロンを坑道に追い詰めますが、落盤によって炭鉱技師の河村繁が坑道内に落下してしまいます。阿蘇で発生した地震で陥没した現場で河村は発見されますが、記憶喪失となっていました。

その頃、国籍不明の超音速飛行物体が航空自衛隊に報告されます。自衛隊の戦闘機を撃墜したり、東アジア各地にも出没するなど、各国を混乱に陥れます。

入院していた河村は、恋人キヨの飼っていた鳥の卵が孵化するのを見て記憶が甦ります。落盤した坑道の奥で彼は、地底の大空洞で巨大な翼竜ラドンが卵から孵化し、メガヌロンをついばむのを目撃していたのです。

柏木久一郎博士をはじめとした調査団が阿蘇に向かうと、ラドンが出現します。自衛隊戦闘機の追撃を受けたラドンは佐世保の西海橋を破壊した後、福岡も襲撃します。陸上自衛隊が攻撃しますが、もう1頭のラドンも出現して2頭は飛び去ります。

その後、阿蘇火口の大空洞に潜んでいるラドンが発見されます。ラドンの巣に狙った自衛隊のミサイル攻撃によって阿蘇山も噴火します。立ち昇る噴火の炎によって巻き込まれた2頭のラドンは溶岩の上に落下して燃え尽きていくのでした。

 

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『空の大怪獣ラドン』を再見して思ったこと

ラドンは、ゴジラ、モスラと並ぶ東宝の三大怪獣の一体です。そのラドンのソロデビュー作である『空の大怪獣ラドン』は、既に数多くの書籍や記事で詳細に語られていますので、拙記事では個人的に思うことを綴っていきます。

これまでの鑑賞記

東宝版ビデオ (VHS)

私が『空の大怪獣ラドン』を初めて見たのは、1980年代後半にレンタルしたビデオ (VHS) でした。当時はまだ子供でしたので特撮場面は勿論夢中で見ましたが、本編も1950年代半ばの九州の様子が何か大人の世界を垣間見るようで違う意味で興味深かったです。

特に、記憶喪失になった河村繁が、鳥の卵に突然ひびが入り孵化し始めたのを見て記憶が戻って苦しむまでの流れは、伊福部昭の音楽も相俟って、劇中で最も恐ろしい場面でした。

北米版ビデオ (VHS)

次に『空の大怪獣ラドン』を見たのは、1990年代前半に北米でレンタルして見たビデオ (VHS) でした。1954年の『ゴジラ』が『怪獣王ゴジラ』に改悪されたときほどではありませんでしたが、北米の観客にも分かりやすいように細部が改編されていました。

調査団の前にラドンが初めて姿を現す場面は、最初から2頭が出現するという描写に再編集されていました。ラドンが2頭いるというのが分かりやすくはなりましたが、先にオリジナルを見ていた側からすると妙な感じもしました。

個人的には、ラドンと自衛隊戦闘機の空中戦に流れる曲「ラドン追撃せよ」(M15) が外されていたのが不可解でした。伊福部昭の音楽が(先住民の歌を除いて)全て別人の曲に差し替えられた『キングコング対ゴジラ』よりはマシかもしれませんが、やはり不快です。

最大の違和感は、英語のナレーションが付け加えられたことです。台詞が英語に吹き替えられるのはまだ分かります。又、当時の西洋人は日本文化にまだ馴染みが薄い上に日本人の見分けも付きにくいので、ナレーションによる説明も必要だと北米の配給会社が判断したとしても無理はありません。

ただ、ラドンが火山で絶命する結末から「終」までナレーションが延々と続くのには閉口しました。『天空の城ラピュタ』のディズニー版では音楽が追加されたり、『Shall we ダンス?』も北米版ではナレーションが追加されたりしたように、米国では無音の余韻は歓迎されないのでしょうか。

Amazon Prime Video

実は、今回の映画祭上映の数ヶ月前に、Amazon Prime Videoで『空の大怪獣ラドン』を鑑賞していました。

一緒に見た妻はこのときが初見でした。和製ホラー映画が好きな妻が珍しく興味を示したので二人で見てみた次第です。

前半のサスペンスに満ちた描写や後半の精巧なミニチュア特撮は妻も賞賛していましたが、結末には若干の不満点もあったそうです。具体的には、ミサイル攻撃の場面が長すぎること、ミサイルが着弾しているのに何故ラドンは中々飛び出さなかったのか、火口から飛び立った2匹のラドンが力尽きた描写が分かりにくい、という点です。

実は、私も子供のときに初めて見たとき以来、妻と同じ疑問を抱いていました。後に様々な資料を読んで、溶鉱炉のセットの熱でラドンを吊っていたワイヤーが切れてしまった偶発的な現象だと知りました。そうした舞台裏の事情を考慮して久しぶりに再見しましたが、やはり初見のときに感じた違和感は殆ど変わりませんでした。

それでもラドンが溶岩に落ちて絶命する結末が胸を打つのは、後述するように、伊福部昭の音楽の力が大きいと思います。

午前十時の映画祭12

「午前十時の映画祭」上映作品は、グループAの劇場では4Kデジタルリマスター版での上映ですが、香川県のイオンシネマ宇多津では2K上映です。上映開始時刻は、午前10時25分でした。

2Kとは言え十二分に高画質でした。何よりも色彩の鮮やかさに目を見張りました。特に「空の大怪獣」が主役ですので、大空の青色が際立っていました。まるで最近の映像かと見間違えそうなほど鮮明な映像をスクリーンで堪能しました。

間違いなく最高の状態で『空の大怪獣ラドン』を鑑賞できる貴重な機会です。

又、下記の動画をご覧になれば、この映画をまだ見ていない人も、既に見た人も、更に映画を楽しめることは請け合いです。

動画の前半では、大の特撮マニアというフリーアナウンサーの笠井信輔が『空の大怪獣ラドン』の見所を余すところなく熱く語っています。

笠井の語りの中で個人的に耳を引いたのは、結末の阿蘇攻撃についての解釈です。伊福部音楽が流れない中、一斉射撃ではなく一発ずつミサイルが撃ち込まれて爆発する描写が延々と繰り返されます。太平洋戦争の敗戦から僅か11年後にこの映像を見た当時の観客は空襲の体験を生々しく想起したかもしれません。そして、東日本大震災から12年を経てウクライナ侵略戦争が進行中の現代に生きる私達も、今回の4K修復された鮮明な映像と音響でこの場面を見て、怪獣よりも人間の兵器の方が恐ろしいことを改めて痛感させられるというのです。

これは目から鱗が落ちる解釈でした。今までは単に冗長にしか感じられなかった場面も、そうした視点と時代背景を意識することによってまた異なる意味合いが感じられるのかもしれません。

動画の後半で清水俊文が語る4Kデジタルリマスター作業の解説も非常に具体的です。特に、東宝に現存していた三色分解ポジフィルムによって当時の色彩を復元した個所が興味深いです。今回の修復も期待を遥かに上回る仕上がりでしたので、その緻密で根気強い作業に頭が下がります。

東京現像所の事業終了は寂しいですが、これまでの事業は新会社に引き継がれるので、名作映画の4Kデジタルリマスターが今後も継続されていくのを期待しています。

午前十時の映画祭の『空の大怪獣ラドン』4Kデジタルリマスター版は、グループBの劇場で2023年1月12日(木)まで上映中です。上映開始時間は必ずしも午前10時とは限りませんので、各映画館の情報をご確認ください。

午前十時の映画祭13 デジタルで甦る永遠の名作
午前十時の映画祭13 デジタルで甦る永遠の名作

 

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伊福部昭の音楽

本多猪四郎の演出と円谷英二の特撮と並んで東宝特撮映画に欠かせないのは、やはり伊福部昭の音楽です。『空の大怪獣ラドン』でも、伊福部音楽は絶大な効果を上げています。

1954年の初代『ゴジラ』のときと同様に、円谷は伊福部に特撮映像を中々見せなかったそうですが、プテラノドン的な怪獣が大空を滑空するということで高音域の曲を構想したそうです。

当時は、ゴジラやラドンがその後何度も登場することになるとは伊福部も思っていませんでしたので、『空の大怪獣ラドン』も仕事で書いた一本という扱いでした。ですから、タイトル曲を含めて、ラドンの主題というよりは作品の映像に合う不気味な雰囲気を表現する曲が多いです。

勿論、映画音楽の仕事でも伊福部は決して手を抜きません。映画のために書かれた全23曲は曲の雰囲気は言うに及ばず、挿入される個所も全て的確です。炭鉱の暗闇が多い前半の不気味な感じが続いた後、ラドンが登場する後半では一転して「ラドン追撃せよ」(M15) のアレグロが鳴り響き、大空の映像の解放感を最大限に感じさせます。

個人的に好きなのは、ラストに流れる2曲「大阿蘇の自然」(M21) と「エンディング」(M22) です。特に、エンディングの曲は火山の炎に包まれる二体のラドンの哀しみを感じさせて今でも胸が熱くなります。

後年ラドンは幾度もゴジラ映画にゲスト出演して、2019年にも『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で大暴れしたのは記憶に新しいところです。ハリウッド映画の最新の特撮は確かにリアルで火山から登場して戦闘機を次々と薙ぎ払う場面は迫力満点でしたが、簡単にキングギドラの軍門に下ってしまう後半で株を下げてしまった感があります。

1956年の『空の大怪獣ラドン』は、巨大な翼竜が現代に蘇ったことにより引き起こされる大災害から、その巨体故に人間によって駆除されてしまう悲劇性を巧みな作劇と特撮によって表現しています。ゴジラと同様に、ラドンもそのデビュー作で描かれた初代が最も悲劇的なカリスマ性を帯びていました。

今回のデジタルリマスターによって、66年前の『空の大怪獣ラドン』はかつてないほどの説得力をもって観る者を圧倒します。怪獣映画や特撮映画という枠を超えて、日本映画黄金期の名作の一本でもあります。

(敬称略)

 

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参考資料(随時更新)

『円谷英二の映像世界』 山本眞吾 編、実業之日本社、1983年

グッドモーニング、ゴジラ 監督 本多猪四郎と撮影所の時代 (復刊版)』 樋口尚文、国書刊行会、2011年

『伊福部昭語る 伊福部昭映画音楽回顧録』 伊福部昭 (述)、小林淳 (編)、ワイズ出版、2014年

「やっときれいなラドンを見れた」66年前のカラー映像を再現。鍵を握った秘蔵フィルムとは?」 『ハフィントンポスト日本版』2022年11月20日

CD「AKIRA IFUKUBE 完全収録 伊福部昭 特撮映画音楽 東宝篇1」 伊福部昭、東芝EMI、TYCY-5195/5196、1992年

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