こんにちは。タムラゲン (@GenSan_Art) です。
9月29日(木)、能登演劇堂にて、無名塾の『いのちぼうにふろう物語』を、妻と一緒に観劇しました。
非常に見応えのある舞台でしたので、石川県旅行の体験記と共に、思ったことを綴っていきます。
旅行日程
9月27日(火)
妻は子供の頃の家族旅行で一度だけ石川県を訪れたことがありますが、私は今回が初めてでした。妻の家族は自家用車で移動したそうですが、私達はスケジュールの都合上、高速バスで石川県まで行き、現地はレンタカーで移動することにしました。
22:40、夜行バスに乗車してJR高松駅を出発しました。
9月28日(水)
06:10、名鉄バスセンター(メンズ館3F)に到着。小休止。
07:30、バスを乗り換えて名鉄バスセンター(名鉄百貨店メンズ館3階)を出発。
11:20、JR金沢駅に到着。
駅の近くのホテルでレンタカーに乗車して、早速移動します。初めての町中を運転するのは緊張しましたが、カーナビのおかげで次第に慣れていきました。
午後12過ぎに最初の目的地、焼菓子専門店 bien Bake (ビアンベイク) に到着しました。妻がTwitterで関心を持っていたお店でしたので、遂に訪問することが出来て感慨深そうでした。私も、チョコフィナンシェ、カヌレ、フロランタンを購入しました。濃厚でありまがら、くどくない適度な甘さで非常に食べ応えがありました。
次に、13時頃、ひがし茶屋街を散策しました。
国内外の観光客の他に、修学旅行らしき学生も大勢来ていました。最初に当てずっぽうで入った某うどん店のおろしそばは量が少なかったのに面喰いましたが、次の予定があったので、急いで食べ終えて移動しました。
14時20分頃、日蓮宗/正久山 妙立寺に到着。
「忍者寺」という通称で有名ですが、実際は忍者とは関係ないそうです。加賀三代藩主の前田利家が、1643年 (寛永20年)に金沢城付近から移設建立した寺です。当時は、幕命によって城以外は3階建て以上の建築は禁じられていたため、2階建ての外観でありながら、内部が4階建て7層という極めて複雑な内部構造になっています。
妙立寺は、観光客向けに内部の案内ツアー (要予約) もしています。私達も事前に予約していましたので、予定通り14時30分頃に、寺の内部を拝観しました。ガイドさんの詳しい説明を聞きながら、約40分の拝観でしたが、確かに一度迷うと簡単には外には出られないような複雑な構造でした。又、公儀隠密や外敵を惑わし迎え撃つための様々な仕掛けにも感心しました。忍者に関係なくとも「忍者寺」と呼ばれるのも分かる気がしました。
次に妻の希望で、加賀毛針 目細八郎兵衛商店に行きました。伝統工芸の非常に繊細な技で製作された品は、どれも目を見張る美しさでした。
再び ひがし茶屋街に行き、金澤烏鶏庵 東山店にて、ソフトクリームを購入しました。烏骨鶏の卵を使用したというだけあって非常に濃厚で美味でした。
金沢駅の中の食堂で夕飯を済ませた後、能登方面に向けて出発しました。のと里山海道を約40分真っすぐに走行しました。車中から向かって左側は日本海でしたが、午後8時過ぎには既に漆黒の闇でしたので何も見えなかったのが残念でした。
21:00頃、七尾市のホテルにチェックイン。旅の初日から慌ただしい移動が続いていたので、妻も私も速攻で爆睡しました。
9月29日(木)
午前7時半頃、起床。
昨日よりよく晴れていて、ホテルの窓から見える海や空が見事な眺めでした。
8時頃、ホテルのバイキングで朝食を食べた後、近くにある和倉昭和博物館とおもちゃ館まで徒歩で移動しました。
シンプルな倉庫のような外観とは裏腹に、非常に密度の濃い展示内容に圧倒されました。
10時にチェックアウトした後、のとじま水族館に行きました。生まれて初めてジンベイザメを間近で見て、その雄姿に感心しました。
マイワシの群れも壮観でした。
中島町へ向かう途中、道の駅 なかじまロマン峠にて、軽く昼食を済ませました。
開演までまだ時間に余裕があったので、明治の館(室木家住宅)にも寄りました。
天領で庄屋を務め、酒造業、廻船業も営んだ豪農・室木家の旧宅です。主屋は、合掌組入母屋造りで、茅葺屋根や太い柱や梁が見事で、まるで明治時代にタイムスリップしたかのようでした。
『いのちぼうにふろう物語』観劇
能登演劇堂
15時半頃、能登演劇堂に到着しました。
ドイツ出身の画家トニー・ステラさん (@studiostella) によるイラストが素晴らしいです。数年前から私もツイッターやインスタグラムでステラさんの作品を拝見していました。日本映画や仲代さんの大ファンという彼の作品が遂に無名塾のポスターやパンフレットに公式に採用されたことは、非常に嬉しいです。
開演1時間前でしたが、既に多くの車が停まっていました。
仲代達矢さんと能登との縁は、1983年にまで遡ります。当時、黒澤明監督の『乱』が撮影延期となったため、仲代さんは奥さんと義理のお母さんと一緒に能登まで家族旅行に行ったそうです。都会から遠く離れた旧・中島町(現・七尾市中島町)の自然豊かな環境に感銘を受けた仲代さんは、1985年から能登中島合宿を始めました。無名塾と町民との交流が深まり、やがて仲代さん監修のもと演劇に特化した世界でも稀有な劇場である能登演劇堂が1995年に完成しました。
この日もロビーは大勢の人で溢れていて、無名塾の人気の高さが伺えました。あゆみコーナーでは、能登演劇堂での無名塾公演のポスターや大道具などが多数展示されていました。
開演10分前に、私と妻はネットで購入したチケットで入場。『いのちぼうにふろう物語』のパンフレットと『仲代達矢 役者七十周年』のパンフレットとDVDも購入しました。
私と妻の席は、中央列の後方でした。ワンスロープ式の客席ですので、後ろの方でも見やすいですし、ステージ全体が見渡せるのも一興でした。
開演時間が近づくにつれ、556席ある館内はほぼ満席となりました。
私が無名塾の舞台を観劇するのは、2014年の『ロミオとジュリエット』(サンケイホールブリーゼ) 以来二度目で、仲代さん御本人を目にするのは、2017年、シネ・ヌーヴォ (大阪) の「小林正樹映画祭」での『人間の條件・完結篇』上映後のトーク以来でした。
そうした感慨に耽っている内に、予定通り16:30頃に『いのちぼうにふろう物語』は開演しました。
『いのち・ぼうにふろう』と『いのちぼうにふろう物語』
今回『いのちぼうにふろう物語』を見に行こうと思った個人的な動機は、何と言っても1971年の小林正樹監督の映画『いのち・ぼうにふろう』との比較でした。
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参考までに、映画と舞台の主なスタッフ・キャストのお名前を一覧にしてみました。
『いのち・ぼうにふろう』 | 『いのちぼうにふろう物語』 | |
スタッフ(敬称略) | ||
監督(演出) | 小林正樹 | 林清人 |
脚本 | 隆巴 | 隆巴 |
美術(装置) | 水谷浩 | 垣内紀男 |
音楽 | 武満徹 | 池辺晋一郎 |
照明 | 下村一夫 | 遠藤正義 |
キャスト(敬称略) | ||
定七 | 仲代達矢 | 川村進 |
おみつ | 栗原小巻 | 朝日望 |
おきわ | 酒井和歌子 | 根本朱理、川下千尋、石川凛乃 |
幾造 | 中村翫右衛門 | 仲代達矢 |
同心 金子 | 神山繫 | 鎌倉太郎 |
与兵衛 | 佐藤慶 | 進藤健太郎 |
富次郎 | 山本圭 | 赤羽秀之 |
同心 岡嶋(岡島) | 中谷一郎 | 別所晋 |
政次 | 近藤洋介 | 大塚航二朗 |
灘屋の小平 | 滝田祐介 | × |
お京 | × | 小宮久美子 |
源三 | 岸田森 | 渡辺翔 |
文太 | 山谷初男 | 上水流大陸 |
船宿の徳兵衛 | 三島雅夫 | 別所晋 |
仙吉 | 植田峻 | 十代修介 |
由之助 | 草野大悟 | 中山研 |
夜番 勝兵衛 | 矢野宣 | 島田仁 |
名のない男 | 勝新太郎 | 平井真軌 |
灘屋文七 | 吉田道広 |
映画『いのち・ぼうにふろう』をDVDで最初に見たときは、原作者・山本周五郎さんの人情噺と小林監督の芸術的な演出が水と油のようだと思いました。その後、何度見ても同じ感想でした。
仲代さんをはじめ、俳優座の方々は豪華な配役で演技も申し分なく、撮影や美術も重厚でしたのに、同じ小林監督の『切腹』や『上意討ち 拝領妻始末』に及ばないのは、脚本が原因ではないのかと長い間思っていました。
そんな生意気なことを考えながら観劇したのですが…
結論から先に言いますと、無名塾の『いのちぼうにふろう物語』は、映画『いのち・ぼうにふろう』より心に響く素晴らしい舞台でした。
映画版は極上の映像美でありながら登場人物とは距離感を感じましたが、舞台は直に俳優の演技を体験するということもあり、隆巴さん(宮崎恭子さんのペンネーム)が台本に込めた思いがよりストレートに伝わってきました。
考えてみれば、最初に映画を見たとき、深川安楽亭を主な舞台とした群像劇が舞台向きだなぁ、と思ったものでした。すると、リアル指向の映画より、様式化された舞台の方が物語も不自然に感じられないのかもしれません。
又、映画版では武満徹さんの感情移入を拒むかのような冷徹な音楽が、映画を更に冷たい雰囲気にしていました。『切腹』や『上意討ち』のような厳格な武家社会を描いた映画になら合っていた武満さんのストイックな音楽演出も山本周五郎の世界とはかけ離れていたのでしょうか。無名塾の常連でもある作曲家・池辺晋一郎さんの音楽は(良い意味で)通俗的な感じでしたので、山本周五郎の人情噺によく合っていたと思います。
隆巴さんが舞台用に執筆した台本は映画とほぼ同じ内容ですが、細部に幾つか異なる点があります。
先ず、映画は同心の金子と岡島が勝兵衛から安楽亭の説明を受ける場面から始まりますが、舞台は仲間を二人斬られた安楽亭の男達が命からがら戻る場面から始まります。この冒頭の改変によって、地図上から安楽亭を客観的に見る映画よりも観客の気持ちを安楽亭に一体化させています。
映画では、危険な抜け荷の仕事を持ちかけるのは灘屋の古平という狡猾な男でしたが、舞台では、お京という女性ななっていました。しかも、定七に惚れている設定でした。
映画ではひたすら苛々するキャラだった富次郎は舞台でも同じやらかしを演じますが、不思議なことに映画ほど苛つくことはありませんでした。その理由はよく分かりませんが、舞台では映画のようにアップなどが無いので他の登場人物の演技でイラつき度が相殺されたのかもしれません。
舞台では、ラスト近くで安楽亭が取手に包囲されたことを知った男達が太鼓、摺鉦、笛を鳴らしてお祭り騒ぎを始める場面が追加されています。危険な抜け荷に出掛けた定七達を待ちながら世を明かしたり、雀が死んでしまうなど気持ちが沈む場面が続いた後に、一転してクライマックスに雪崩れ込む合図のようで、観客のテンションも一気に高める効果的な脚色と演出でした。
無名塾の名演
仲代達矢さんが名演だったのは言うまでもありません。かつて小林監督の映画で定七を演じた仲代さんは、1982年のテレビドラマ『地獄の掟』では安楽亭の主人・幾造を演じるようになり、能登演劇堂でロングラン公演となった無名塾の『いのちぼうにふろう物語』でも幾造を演じ続けています。
現在89歳という年齢の仲代さんは、幾造より高齢となりましたが、舞台上ではそうした年齢差を一切感じさせませんでした。それどころか映画で幾造を演じた中村翫右衛門さんより若く見えるときすらありました。あの年齢で、舞台上から後方の客席までよく通る発声が出来るのは驚異的でした。
呼び掛けられたときに、「んん?」と、いつもの仲代さんの惚けた口調が出たのはご愛嬌ですが(笑)
発声と言えば、無名塾の他の俳優さんも堂々たるものでした。冒頭から結末に至るまで全ての俳優さんの台詞が明瞭に聞こえました。やはり、舞台上での発声を重視する仲代さんによってみっちり鍛えられたのかもしれません。
特に、定七役の川村進さんは低音の力強い声が魅力的で、映画で同役を演じた仲代さんに勝るとも劣らない貫禄を見せていました。又、映画で与兵衛を演じたのは佐藤慶さんでしたが、流石に「生き仏」という異名からはかけ離れて見えましたので、舞台で同役を演じた進藤健太郎さんの方が役に合っていたように思えました。
発声に話を戻しますと、ラストの大捕物で、バックステージの森の奥の方まで駆けていった俳優さんの声まで聞こえたのには驚きました。
因みに、能登演劇堂のトレードマークでもある舞台奥の大扉の観音開きは、場面が暗転している間に全開になっていました。私の想像ですが、劇の途中で開くと観客の注意が物語から舞台装置に逸れてしまうからでしょうか。ともあれ、多数の御用提灯が灯された中で展開する捕物も、舞台上の様式化された殺陣が映画とは一味違う見せ場を盛り上げていました。
カーテンコールでは、宮崎恭子さんの御遺影が掲げられて、更に大きな拍手を呼びました。仲代さん御夫妻が長年かけて築き上げてきた無名塾と能登との熱い繋がりも感じられて、私も妻も胸が熱くなりました。カーテンコールは三度にも及び、この日の公演も盛況の内に幕を閉じました。
今年の師走で卆寿を迎える仲代達矢さんが渾身の名演を見せて下さる無名塾の『いのちぼうにふろう物語』の公演は、能登演劇堂限定で10月10日までです。はるばる能登にまで足を運ぶ価値は十二分にあります!
又、tomoko55さん (@elecutewim) のブログ記事も、能登演劇堂へのアクセスや周辺の観光スポットなどを実に詳しく紹介して下さっているので、初めて演劇堂へ向かう方には非常に便利です。
更に、北陸朝日放送公式チャンネルのニュースでも、最終リハーサルの映像の一部などが見れます。
帰路
19:00過ぎに能登演劇堂を後にして、来た道を逆に走行して金沢まで戻りました。21時半頃にレンタカーを返却。金沢駅構内の飲食店は全て閉まっていたので、仕方なく駅近くの居酒屋で慌ただしく夕食を済ませました。
22:55、金沢駅西口ロータリーで高速バスに乗って帰路につきました。
9月30日(金)
06:00、プラザモータープール(大阪梅田)で下車。
07:10、阪急三番街1F 高速バスターミナルで再びバスに乗車。
午前11時頃、香川県に到着。
自宅を出てから帰宅するまで約61時間でした。私にとって初めての石川県旅行でしたので、不慣れな点もありましたが、濃密で充実した旅行でした。
何よりも、仲代達矢さんと無名塾の舞台を再び観劇できたのは、何物にも代え難い貴重な体験でした。
参考資料
書籍・記事
『深川安楽亭』 山本周五郎、新潮社、1973年
Joan Mellen, Voices from the Japanese Cinema, Liveright, 1975
『役者 MEMO 1955-1980』 仲代達矢、講談社、1980年
『広瀬飛一写真集 人間・仲代達矢』 広瀬飛一、無名塾、2002年
『未完。 仲代達矢』 仲代達矢、KADOKAWA、2014年
『生誕100年 映画監督・小林正樹』 庭山貴裕、小池智子 編、公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館、2016年
『映画監督 小林正樹』 小笠原清、梶山弘子 編、岩波書店、2016年
『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』 春日太一、文藝春秋、2017年
「無名塾「いのちぼうにふろう物語」 俳優 仲代達矢さん/輝く人間性 どんな人にも/亡き妻・隆巴の脚本 一緒にやり遂げたい」 しんぶん赤旗 日曜版、2022年8月28日号
『無名塾 いのちぼうにふろう物語』 2022年(演劇堂で販売されたパンフレット)
DVD
DVD 『いのち・ぼうにふろう』 東宝株式会社、2016年
ウェブサイト・SNS
・ 無名塾 – 公式サイト
・ 能登演劇堂 – 公式サイト
・ 仲代達矢 (幾造) – 公式プロフィール (無名塾)
・ 小宮久美子 (お京) – 公式プロフィール (仕事)
・ 赤羽秀之 (富次郎)- 公式プロフィール (仕事)
・ 中山研 (由之助) – 公式プロフィール (無名塾)
・ 平井真軌 (名のない男) – 公式プロフィール (無名塾)
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・ 十代修介 (仙吉) – 公式プロフィール (仕事)
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・ 上水流大陸 (文太) – Twitter (@tairiku09130913)
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