関東大震災

1923年 (大正12年) 9月1日午前11時58分に起きた関東大震災は、約190万人もの被災者の内、死者・行方不明者数が約10万5千人にも上った日本史上最大級の自然災害です。

 

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現代にも通じる震災の教訓

関東大震災で思い出すのが、一色登希彦の漫画版『日本沈没』第6巻(原作・小松左京)で描かれた東京大地震です。

1923年のとき以上に高層ビルが密集する大都会になった現代の東京で関東大震災級の大地震が起きたら、どれほど大規模な被害をもたらすのかが生々しく描かれています。

又、関東大震災で多くの犠牲者を出した火災の中でも特に恐ろしいのが火災旋風です。漫画『日本沈没』でも、東京を大震災が襲った後、高層ビル間の風で巨大化した火災旋風が多数の避難者を飲み込んで焼き尽くしていく凄惨な場面がありました。

やがて起きる次の巨大地震に備える意味でも、漫画版『日本沈没』は、地震列島に生きる全日本人必読の書だと思います。

関東大震災が恐ろしいのは、家屋の倒壊や火災だけでなく、デマに惑わされた人達によって多くの朝鮮人が殺害されたことです。しかも、朝鮮人と間違われて日本人まで無惨に殺害された事件まで起きていました。

中でも酷かったのが、福田村事件です。

1923年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)にて、香川県三豊郡の薬売り行商人15人の内、妊婦や子供を含む9人が朝鮮人だと決め付けられて地元の自警団によって惨殺されてしまいました。

映画監督の黒澤明も13歳のときに関東大震災に被災したときのことを、自伝『蝦蟇の油』に詳細に書いています。

その中にも、デマにかられた大人達によって朝鮮人が虐殺されたことに関する記述がありました。

例えば、黒澤の父親が髭を生やしていただけで朝鮮人と思い込んだ棒を持った人達に取り囲まれたり、黒澤が井戸の外の塀に書いた落書を、朝鮮人が毒を入れた印だと大人達が決め付けたこと等、デマに惑わされた人間の恐ろしさと愚かさが記されています。

黒澤は、自伝に、こう書いています。

「しかし、恐怖すべきは、恐怖にかられた人間の、常軌を逸した行動である。
 下町の火事の火が消え、どの家にも手持ちの蝋燭がなくなり、夜が文字通りの闇の世界になると、その闇に脅えた人達は、恐ろしいデマゴーグの俘虜になり、まさに暗闇の鉄砲、向こう見ずな行動に出る。
 経験の無い人には、人間にとって真の闇というものが、どれほど恐ろしいものか、想像もつくまいが、その恐怖は人間の正気を奪う。
 どっちを見ても何も見えない頼りなさは、人間を心の底からうろたえさせるのだ。
 文字通り、疑心暗鬼を生ずる状態にさせるのだ」
─ 黒澤明 『蝦蟇の油』

災害時に人間が如何に簡単に理性を失い、愚かな行動に走ってしまうのかを考えさせられます。

一式の漫画『日本沈没』でも、東京大震災の後、疑心暗鬼に陥った「普通の人達」の自警団が、罪も無い青年をリンチ殺害する惨たらしい場面がありました。

こうした関東大震災のときのデマに惑わされた大人達による朝鮮人や日本人の殺害事件は、単なる「過去の出来事」では済まされません。

自公政権の増長に便乗するかのように、特定の民族を口汚く罵倒する差別主義者達が野放しにされている現状は、目に余ります。現在の都知事である小池百合子は極右団体・日本会議の一員ですので、これまでの都知事が震災の日に出していた朝鮮人虐殺被害者に対する追悼文すら出していません。

そうした差別主義者達による沖縄に対する差別的言動も同様の酷さです。

閑話休題。

宮崎駿の『風立ちぬ』で特に印象的だったのは、やはり関東大震災の場面でした。ありきたりな恐怖を煽る音楽を一切使わず、不気味な効果音のみで描いていたのには感心しました。

ここでも、黒澤明が自伝『蝦蟇の油』に記した大震災の体験談との奇妙な類似点が興味深いです。

『風立ちぬ』では、東京に向かう機関車に乗っていた堀越二郎が突風で帽子を飛ばされた後に地震が起きていたが、黒澤明も地震が起こる前の午前11時頃に突風があったと書いています。

更に、映画では、地面が波打ち、家の屋根瓦が滑り落ちる描写も印象的でしたが、黒澤も揺れる土蔵や家屋の屋根瓦が滑り落ちるのを目撃して印象に残ったことを記していました。

『風立ちぬ』の制作開始が東日本大震災の直前とは、何とも恐ろしい偶然ですが、かつての日本が関東大震災の後に辿った滅亡への道を今また繰り返しそうな現状が更に恐ろしいです。

東日本大震災では、大変な災害だったにも関わらず、多くの人達が理性的な行動を取っていました。ですが、今度は「放射能は安全」などのデマを垂れ流す御用学者原発プロパガンダが跳梁跋扈する現状を見ると、歴史は繰り返されるのかと暗澹たる気持ちになってしまいます。

関東大震災の教訓を「忘却」することを選んだ日本人が、過去の教訓から本当に何かを学び実践できる日は、いつになったら来るのでしょうか。

 

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「福田村事件」(四国新聞 2000年7月10日)

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