伊福部昭《箜篌歌》 初演50周年

50年前の今日 (5月27日) は、伊福部昭の《箜篌歌》が初演された日です。

伊福部昭 《箜篌歌》 Akira Ifukube's KUGOKA, Aria Concertata di KUGO-Arpa (1969) イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura

 

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《箜篌歌》について

《箜篌歌》は、伊福部昭が1969年に作曲したギター独奏曲で、ギター製作者の河野賢に献呈されました。1969年5月27日、渡辺範彦によりパリ・インターナショナル・コンテストにて初演されました。同年、全音楽譜出版社から楽譜も出版されました。《箜篌歌》の楽譜は《古代日本旋法による踏歌》と《ギターのためのトッカータ》と併せて全音オンラインショップで現在も入手可能です。

箜篌とは数種の撥弦楽器の総称です。その内のハープ状の竪箜篌は西アジアから前漢中国を経て古代日本に渡り、雅楽にも使用されましたが、平安時代には使用されなくなりました。

1967年、伊福部は、箜篌を見るために正倉院宝物展を開催していた奈良国立博物館にまで出向きました。もっとも、現存していたのは箜篌の残欠だけでしたが、伊福部は十分に創作意欲を掻き立てられたそうです。当時の音楽を学術的に再現するというよりは古代の箜篌をイメージして自由に作曲した曲です。その意味では、アイヌの踊り「タプカラ」をイメージしながらも旋律などが完全にオリジナルな《シンフォニア・タプカーラ》を思い出します。

興味深いことに、日本万国博覧会 (1970年) の三菱未来館のエントランスロビーで《箜篌歌》がBGMとしてリピート再生されたそうです。大阪万博の入場者総数は6421万8770人でしたので、相当数の人達が無意識に伊福部の純音楽を聴いていたことになります。因みに、三菱未来館の「日本の自然と日本人の夢」のための音楽から「火山」が『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972) のタイトル曲として流用されたのは有名な話です。

後年、《箜篌歌》はギター以外の楽器でも演奏するため、1989年にハープ独奏用に、1997年に二十五絃箏用に作曲者自身によって編曲されました。

 

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私的な話

実は、私が最初に聴いた《箜篌歌》はオリジナルのギター独奏版ではなく、ハープ独奏版でした。1994年に発売されたCD「伊福部昭 室内楽作品集」(東芝EMI) に収録された演奏を1995年頃に初めて聴いたときは、正直やや退屈な感じがしました。

名著『伊福部昭の宇宙』(音楽之友社) の影響もあって伊福部の純音楽作品にも傾倒し始めていたとは言え、《日本狂詩曲》や《ラウダ・コンチェルタータ》など力強い管絃楽曲に熱中していた頃でしたので、伊福部音楽としては地味すぎると当時は生意気にも思っていました。数年後、CD「伊福部昭 ギター・リュート作品集 伊福部昭作品集3」(fontec) でギター独奏版を初めて聴いたときも、それほど印象は変わりませんでした。

《箜篌歌》に対する私の感じ方に変化が生じたのは、1999年のCD「琵琶行 伊福部昭作品集」(カメラータ・トウキョウ) で二十五絃箏版を聴いたときでした。比較的新しい演奏と録音ということに加えて、私自身もこの頃から箏の響きに興味を持ち始めてきたこともあり、結構聴き入りました。伊福部の箏曲を長年弾いてきた野坂惠子 (現・二代目 野坂操壽) の演奏が見事だったことは言うまでもありません。

又、2004年の個展以降、絵描きとしての活動を本格的に開始したことも影響しました。徹夜の制作が続くときは、伊福部の音楽を聴きながら描くことが多かったです。最初はゴジラなどの映画音楽をよく聴いていましたが、深夜に孤独な作業をしているときは何故か伊福部のギター曲や箏曲が心地良く作業に集中できました。

そのことを考えていて、ふと思い出しました。伊福部の作品の中で、60年代後半から数年間は《古代日本旋法による踏歌》(1967)、《箜篌歌》(1969)、《ギターのためのトッカータ》(1970) という具合にギター曲が続きました。主な理由は、大著『管絃楽法』の執筆中に大量のオーケストラの楽譜を研究した反動で、簡素な独奏曲を書きたくなったからです。更に、この時期の伊福部は、まだ東京音楽大学に勤める前で、映画音楽の依頼や来客も減少してきて経済的な苦労に加えて精神的孤独にも耐えていた時期であったことも侘しい作風に影響したそうです。

勿論、巨匠の孤独な時期と私の作業時間を並べて語ることなどおこがましいのですが、周囲の雑音が無い中ひとりで聴くことで《箜篌歌》の奥深い魅力を素直に堪能できるようになったと思います。

【11月3日 追記】
ネットで購入したCD「鈴木大介 / 伊福部昭を弾く」(ベルウッド) が届きましたので、早速聴いてみました。

鈴木大介のギターは、非常に流麗でスマートな演奏という印象でした。《ギターのためのトッカータ》は5分31秒で、《古代日本旋法による踏歌》13分54秒と、フォンテック盤での西村洋による《トッカータ》6分45秒、《踏歌》16分37秒と比較しても明らかなように、今まで聴いた中でも特にテンポが速い感じでした。勿論、ただ速いだけではなく緩急のメリハリの利いた演奏ですので、《箜篌歌》も、西村の16分37秒より少し短い15分56秒とは言え、僅か41秒の差ですので、特に速すぎることもなく心地良い演奏だったと思います。(渡辺範彦の演奏は更に短い13分37秒ですし)

(敬称略)

 

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参考資料

『伊福部昭 タプカーラの彼方へ』  木部与巴仁、ボイジャー、2002年

伊福部昭 ゴジラの守護神・日本作曲界の巨匠』  片山杜秀 編、河出書房新社、2014年

CD「伊福部昭 室内楽作品集」 東芝EMI、TYCY-5369・70、1994年

CD「伊福部昭 ギター・リュート作品集 伊福部昭作品集3」 fontec、FOCD9088、1996年

CD「琵琶行 伊福部昭作品集」 カメラータ・トウキョウ、28CM-558、1999年

CD「伊福部昭 ギター作品集」 ミッテンヴァルト、MTWD99019、2004年

CD「伊福部昭 生誕百年記念アルバム」 キングレコード、KKC2090、2014年

CD「鈴木大介 / 伊福部昭を弾く」 ベルウッド・レコード、BZCS-3078、2014年

《箜篌歌》」 – 伊福部昭データベース

第10回「伊福部ギター作品、ソナタ、鞆の音、自作新作など」」- 後の祭

伊福部昭コレクション」 – 東京音楽大学

伊福部昭音楽資料室」 – 音更町図書館

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