1573年5月13日 (元亀4年4月12日) は、武田信玄の命日です。
武田信玄と言えば、妻がNHK大河ドラマ『風林火山』(2007) のファンでしたので、5年前に二人で全話鑑賞したことがあります。2014年1月からDVDをレンタルし初めて、4月27日(日)に全50話を見終えました。(妻は本放送の殆どを見ていて、私はこのときが初見でした)
不明な点が多い山本勘助の人生を大胆に創作した物語は、史実的なことは抜きに割り切れば、中々面白く見れました。(そもそも、時代劇そのものが何らかの脚色が入った創作ですし)
映画とドラマの武田信玄
武田信玄が登場する映画やドラマは数多くあり、私が調べただけでも次の通り結構あります。
映画
題名 | 公開年 | 武田信玄を演じた俳優 |
笛吹川 | 1960 | 十七代目 中村勘三郎 |
風林火山 | 1969 | 初代 中村錦之助 |
戦国自衛隊 | 1979 | 田中浩 |
影武者 | 1980 | 仲代達矢 (影武者と二役) |
天と地と | 1990 | 津川雅彦 |
信虎 | 2021 | 永島敏行 |
ドラマ (※はNHK大河ドラマ)
題名 | 放送年 | 武田信玄を演じた俳優 |
太閤記 ※ | 1965 | 早川雪舟 |
天と地と ※ | 1969 | 高橋幸治 |
国盗り物語 ※ | 1973 | 大友柳太朗 |
新書太閤記 | 1973 | 神田隆 |
黄金の日日 ※ | 1978 | 観世栄夫 (声のみ) |
徳川家康 ※ | 1983 | 佐藤慶 |
おんな風林火山 | 1986-87 | 石立鉄男 |
武田信玄 ※ | 1988 | 中井貴一 |
武田信玄 | 1991 | 役所広司 |
戦国最後の勝利者 徳川家康 |
1992 | 舛田利雄 |
風林火山 武田の軍師・ 山本勘助の愛と野望 |
1992 | 舘ひろし |
織田信長 | 1994 | 南原宏冶 |
徳川の女~家康の長女 亀姫の闘い |
1997 | 中寛三 |
国盗り物語 | 2005 | 中村敦夫 |
風林火山 ※ | 2007 | 二代目市川亀治郎 (現・四代目市川猿之助) |
天と地と | 2008 | 渡部篤郎 |
女信長 | 2013 | 竹内力 |
信長のシェフ Part2 | 2014 | 高嶋政伸 |
真田丸 ※ | 2016 | 林邦史朗 |
おんな城主 直虎 ※ | 2017 | 松平健 |
麒麟がくる ※ | 2020 | 石橋凌 |
どうする家康 ※ | 2023 | 阿部寛 |
大河ドラマ『風林火山』を見ている間、やはり過去の信玄モノと比較してしまいました。中でも、同じ大河の『武田信玄』との類似点と相違点が興味深かったです。
大河ドラマの『武田信玄』と『風林火山』では、男性が全員、総髪で、出家して坊主頭になったキャラを除けば、誰一人として月代を剃った鬘をしていなかったのが個人的に気になりました。(しかも、リーゼントのように前頭部の髪が異様に盛り上がっていましたし)
何故、男性キャラ全員が総髪になったのか、その理由は知りません。単に予算や手間の問題だったのか、或いは、月代を剃った頭が現代の視聴者には「ダサく」見えるとでも思ったのでしょうか?総髪の武士もいたでしょうが、総髪ばかりにしてしまうのは時代劇として如何なものかと思います。
閑話休題。
共通の題材を映像化した複数の作品を見比べるのは、異なる奏者による同一曲の演奏を聴き比べることに似ています。しかも、同じ俳優が同じ題材の中で異なる役を演じているのを見るのも奇妙な面白さがあります。
例えば、大河ドラマ『風林火山』で宇佐美定満を演じた緒形拳は、1969年の映画『風林火山』では、勘助の家来・畑中武平を演じていました。緒形が演じる宇佐美を見て、思わず「武平、出世したなぁ」と思ってしまいました(笑)
又、映画『風林火山』で山本勘助を演じた三船敏郎は、ドラマ『天と地と~黎明編』では、景虎の父・長尾為景を演じていました。映画で勘助の家来を演じた緒形拳が大河ドラマでは宇佐美定満役だったので、映画では甲斐側だった二人がテレビでは越後側に寝返ったみたいに見えてしまいました。(大河ドラマの『風林火山』で清胤を演じた佐藤慶も、大河ドラマ『徳川家康』(1983) で信玄を、同じく大河ドラマ『武田信玄』では武田家家臣の阿部勝宝を演じていました)
黒澤明の『影武者』
さて、武田信玄を題材にした映画で、私が個人的に最も好きな作品は、黒澤明の『影武者』です。
この映画で、信玄とその影武者の二役を演じる予定だった勝新太郎が降板して、その代役を仲代達矢が演じたことは有名です。この交代劇は公開時に少なからず批判され、現在も否定的な意見を見かけます。
ですが、急な代役だったとは言え、仲代は信玄とその影武者を非常に好演していたと私は思います。(『影武者』の降板劇なら、むしろ、当初予定されていた佐藤勝がどのような音楽を書こうとしていたかの方が個人的に遥かに興味あります)
高野山成慶院蔵の長谷川等伯による有名な肖像画は長らく信玄の肖像画と信じられてきて、当初は勝を信玄役にイメージしていた黒澤もこの肖像画を基に絵コンテを描いたのは明らかです。もっとも、等伯筆の肖像画は実は別人で、より信憑性が高い高野山持明院蔵の肖像画に描かれた武田晴信は痩身で細面です。そういう意味では、偶然ですが図らずも史実の信玄に似る結果になったことにもなります。

イラスト:タムラゲン Illustration by Gen Tamura
ところで、大河ドラマ『風林火山』で、信玄の父・信虎の役に仲代が選ばれたのは、この『影武者』での信玄役の経験があったからでしょうか?仮にそうだとしても、市川亀治郎が演じた信玄が後に仲代信玄になると想像すると妙な感じです。もっとも、それを言い出したら、前川泰之の山県昌景が後に大滝秀治になったり、宍戸開の原虎胤が後に清水のぼる になるのも考えにくいのですが。
またもや閑話休題。
個人的に、大河ドラマ『風林火山』は、黒澤明の『影武者』の前日譚として見ると興味深かったです。
勿論、同じ登場人物を扱っているとは言え、両作品の企画意図と作風は全く異なります。武田信玄と山本勘助の生い立ちから成長を通して武田家の勃興をエネルギッシュに描く『風林火山』と、既に死者となった信玄の幻を巡る人間の妄執と武田家の滅亡を描く『影武者』は、陽と陰のように対照的です。
そして、どちらの作品も、果てしない野望と戦乱の果てに残るのは、夥しい死者と虚しさである点では似ているようにも思えます。
※この記事は、2014年5月13日にアメーバブログに投稿した拙記事に加筆修正を加えました。
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