『人間の條件 第三部・望郷篇 第四部・戦雲篇』公開60周年

60年前の今日 (11月20日) は、小林正樹の映画『人間の條件 第三部・望郷篇 第四部・戦雲篇』(1959) が公開された日です。

1955年にベストセラーとなった五味川純平の同名小説の第一部と第二部を映画化した前作『人間の條件 第一部・純愛篇 第二部・激怒篇』(1959) が大ヒットとなり、制作された続編です。

 

 

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映画について

人間の條件 第三部・望郷篇 第四部・戦雲篇
The Human Condition Part II: Road to Eternity
1959年11月19日公開

人間プロダクション・松竹映画
白黒、グランドスコープ、185分

スタッフ

監督:小林正樹
原作:五味川純平
脚本:松山善三、小林正樹、稲垣公一
企画:若槻繁
製作:小林正樹、若槻繁
撮影:宮島義勇
美術:平高主計
録音:西崎英雄
照明:青松明
編集:浦岡敬一
音楽:木下忠司
監督助手:水沼一郎、成田孝雄、前田陽一、吉田剛
美術助手:戸田重昌
スチール:梶原高男
レリーフ作製:佐藤忠良

出演者

第三部・望郷篇
梶:仲代達矢
美千子:新珠三千代
佐々二等兵:桂小金治
江見二等兵:多々良純
吉田上等兵:南道郎
新城一等兵:佐藤慶
小原二等兵:田中邦衛
橋谷軍曹:内田良平
田ノ上二等兵:柳谷寛
坂内上等兵:植村謙二郎
徳永看護婦:岩崎加根子
小原の妻:倉田まゆみ
丹下一等兵:内藤武敏
工藤大尉:城所英夫
曽我軍曹:青木義朗
久保二等兵:小瀬朗
衛生兵長:田村保
水上兵長:伊藤亨治
沢村婦長:原泉
山崎上等兵:矢野宣

第四部・戦雲篇
梶:仲代達矢

影山少尉:佐田啓二
寺田二等兵:川津祐介
鳴門二等兵:藤田進
小野寺兵長:千秋実
見習士官:安井昌二
参謀:渡辺文雄
土肥中尉:浜村純
野中少尉:小林昭二
弘中伍長:諸角啓二郎
兵器庫軍曹:早野寿郎
赤星二等兵:井上昭文
田代二等兵:牧真史
円地二等兵:小笠原章二郎
中井二等兵:大木正司
小泉二等兵:末永功
三村二等兵:宮田桂
高杉二等兵:水島信哉
安積二等兵:岩山泰三
井原二等兵:神野光
増井一等兵:井川比佐志

 

あらすじ

第三部・望郷篇
梶は、関東軍第1868部隊に二等兵として配属され、厳しい訓練に耐えていました。梶の他にも、不器用な小原二等兵や共産主義者の疑いをかけられた新城一等兵も上等兵達のいじめの標的となっています。ある日、梶の妻の美千子が梶に会いに来ます。梶と美千子は倉庫で二人だけの夜を過ごします。翌朝、美千子は去ります。その後、行軍訓練で落伍した小原二等兵は、吉田上等兵たちから凄惨な侮辱と暴行を受けて、真夜中に便所で自ら命を絶ちます。後日、兵舎の近くで野火が発生します。その騒ぎに乗じて、新城一等兵が脱走します。それを梶と吉田が追いますが、吉田は沼に落ちて落命し、助けようとした梶も気絶します。病室で目を覚ました梶は、自由な気風の丹下一等兵と徳永看護婦と親しくなります。数日後、丹下は連隊に復帰となり、沢村婦長に睨まれた徳永看護婦は転属となります。梶も再び前線に送られます。

第四部・戦雲篇

青雲台地にある部隊に梶は転属されます。そこで、梶は、南満州鉄工所会社時代の同僚であった影山少尉と再会します。影山は、少年兵の訓練を梶に依頼します。梶は、交換条件として、年次兵を初年兵から遠ざけるなど内務班の編成を変えることを申し出ます。梶は上等兵となりますが、それを妬んだ年次兵達から暴行を受けます。新兵を決して殴らず人間的に扱おうとする梶でしたが、年次兵達は事あるごとに因縁を付けて、新兵達に暴力を振るいます。その後、梶に、新兵を連れて国境から離れた地区に陣地を構築する作業命令が下ります。やがて、ソ連軍が満州に侵攻してきます。青雲台地は全滅して影山も戦死します。中隊が戦車壕を掘る中、父が軍人の寺田二等兵は戦争に批判的な梶を非難します。梶達が蛸壺に入って待ち伏せする眼前にソ連軍の戦車隊が迫ります。ソ連軍の火力の前に日本軍は壊滅寸前に追い込まれます。梶は寺田と共に蛸壺の中で生き延びます。小野寺兵長は精神に異常をきたしてしまい、梶が口を塞ごうとして絶命します。戦闘が終わり、梶は生存者を呼びながら夜明け前の荒野を走っていきます。

予告篇

 

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個人的鑑賞記

VHSでの初見 (1989年)

私が『人間の條件』全六部を初めて鑑賞したのは、1989年11月18日 (第一部、第二部)、19日 (第三部から第六部) に見たレンタルビデオ (VHS) でした。偶然にも、この年の11月19日は『人間の條件 第三部、第四部』の公開30周年の前日でした。

当時はまだ子供でしたので、壮絶な内容に打ちのめされながら約9時間半余りを一気に見終えました。又、『人間の條件』は私が初めて見た小林正樹監督の映画でもありましたので、かなり強烈な洗礼となりました。

その後、小林監督と仲代達矢の最高傑作『切腹』(1962) を見て生涯最強クラスの衝撃を受けて、小林監督は、黒澤明と並んで私が最も尊敬する映画監督の一人となりました。

その後、VHS、LD、DVD、Blu-ray、名画座での上映で、他の小林監督の映画を長年かけてコツコツと見てきました。 (「小林正樹監督作品鑑賞記(2017年)」) 中でも、『切腹』、『怪談』(1965)、『上意討ち 拝領妻始末』(1967) は何回も繰り返し鑑賞しました。

ただ、『人間の條件』も名作だと思うものの、内容が特にハードでしたので再見するのを躊躇してきました。

DVDで再見 (2019年)

今年は『人間の條件』第一部から第四部の公開60周年という節目ですので、意を決してDVDをレンタルして約30年ぶりに鑑賞してみました。

とは言え、子供のときに見た以上に約3時間が瞬く間に過ぎるほど見入ったと同時に、大人になった今でも、やはり見続けるのが辛い内容であることも変わりありませんでした。

『人間の條件』が軍隊と戦争の非人間性を描いた作品だと分かっていても、日本軍の残虐性には改めて気分が悪くなりそうでした。

特に、この第三部と第四部では、軍隊内の暴力が全編に渡って執拗に描かれます。スタンリー・キューブリック (1928-1999) 監督の『フルメタル・ジャケット』(1987) も、アメリカ海兵隊の訓練の描写が話題になりましたが、『人間の條件』で描かれる関東軍の方が遥かに野蛮で陰湿です。

原作者の五味川純平 (1916-1995) と、監督の小林正樹 (1916-1996) をはじめ、出演者の多くが従軍経験者でした。しかも、兵隊役の俳優は、従軍経験のあるスタッフから当時と同じ初年兵教育を厳しく受けたそうです。そのため、軍隊の描写は本物仕込みのリアリティに満ちた描写となりました。

主人公の梶は、前作と同様に軍隊の中でも自分の信念を貫こうとするため、今作でも古参兵達から平手打ちなどの暴行を何度も受けます。梶を演じた仲代達矢 (1932-) は、第二次世界大戦の頃はまだ小学生でしたので、従軍経験はありませんでしたが、実際にビンタを受けて顔が腫れたり出血するなど文字通り体を張った演技でした。その容赦ない描写には、見ている方も痛みを感じそうなほどでした。(因みに、戦時中に子供だったとは言え、仲代も疎開先で空襲を受け命の危険にさらされることが度々あったそうです)

小林正樹「(軍隊生活では)殴られることもしょっちゅうです。個人的な原因のこともありますが、軍隊というのは連帯責任ですから、とにかく何かというと殴る。『人間の條件』で梶がよく殴られていますよね。あれだけ隙のない男でも殴られるわけです」 ― 『映画監督 小林正樹

現代にも通じる日本軍の負の遺産

国を問わず軍隊という組織は厳格な階級社会ですが、理由もなく暴力を振るう日本軍は異常です。

水木しげる (1922-2015) が自分の従軍時代を描いた漫画のように、兵隊に取られた人達の体験談は古参兵達から平手打ちなど理不尽な暴力を受けてきた点が共通しています。

『人間の條件 第三部』では、劇中で数少ない平和な場所の病院内でさえ、婦長や衛生長が入院中の兵士に平手打ちをします。

小林正樹「いるんですよ、軍隊には殴るのが商売みたいなヤツが。軍隊が天国みたいな人たちです。故郷の家にいればろくに食べられなかったような連中が軍隊に来て、分隊長や班長になって「お国のためだ」と威張る。そういう人に目を付けられたらどうしようもない。班長の下に三年兵とか四年兵とかの古年次兵がいて班長の手先になって内務班で教育するのですが、これが一番怖かった」 ― 『映画監督 小林正樹

『人間の條件』の軍隊内で、恐らく最大の被害者は小原二等兵かもしれません。梶は人一倍の気力と体力があるので耐え抜きますが、内気で不器用な小原二等兵は、残忍な古参兵達から陰湿な虐待を受け続けて、自ら命を絶ってしまいます。辛い場面の多い『人間の條件』の中でも、小原の場面は特に正視できないほど辛すぎました。

ところで、中沢啓治 (1919-2012) の『はだしのゲン』(1973-1987) でも、中岡ゲンの長兄・浩二が入隊した海軍航空隊の予科練で、教班長の大河原兵曹に虐待された花田照吉が兵舎の便所内で首を吊ってしまいます。同様に、前述の『フルメタル・ジャケット』でも、海兵隊のハートマン軍曹 (リー・アーメイ) に虐待された訓練生のレナード (ヴィンセント・ドノフリオ) が営舎の便所にて、自動小銃の銃口を咥えて引き金を引いてしまいます。三作品とも虐待された新兵が便所で自殺するという点で共通していますが、キューブリックの映画はグスタフ・ハスフォード (1947-1993) が執筆した原作 The Short-Timers (1979) を割と忠実に映像化していますので、単なる偶然かもしれません。(古今東西の映画を大量に見ていたキューブリックなので、参考にぐらいはしたかもしれませんが)

いずれにせよ、軍隊という組織が、個人の適性を無視して兵隊というマッチョな型を押し付けて不向きな人間を破壊してしまうという非人間的なものであるという点では共通しています。

仲代達矢「(戦時中)初年兵は古参兵にいびられ、ゲンコツで殴られ、足で蹴られ、散々な目に遭ったそうだ。強くするためという名目で公然と繰り返される体罰の嵐。古参兵が初年兵をいびるのは、自分たちも初年兵時代にやられてきたからという、いじめの連鎖であった」 ― 『未完。 仲代達矢

余談ではありますが、気の毒な小原二等兵を演じた田中邦衛は、同じ小林正樹監督の『日本の青春』(1968) でも学徒招集され戦死する大野久太郎を演じていました。しかも、同年の岡本喜八 (1924-2005) 監督の『肉弾』(1968) では、主人公 (寺田農) をビンタする鬼のような区体長という正反対の役を演じていました。

根性や精神論を振りかざして初年兵をしごいたり虐待しても、結局はソ連軍の戦車部隊によって他愛もなく壊滅させられてしまいます。自衛隊の北海道大演習場の島松地区で実際に戦車を使用して撮影された戦闘場面は凄まじい迫力です。同時に、理性的・合理的な判断を欠いたために惨敗した日本軍の愚かさを冷徹に描いた場面でもありました。

敗戦後の日本は民主化されたとは言え、日本軍の理不尽な暴力の連鎖は過去の悪夢で終わった訳ではありません。現代でも、自衛隊や警察の内部では新人に対する虐待が後を絶ちません。大人がこの有様ですから、学校内でも「いじめ」という名の傷害が何十年も前から社会問題となっているにも関わらず一向に無くなりません。しかも、最近では生徒間だけでなく教師間でも暴力行為が蔓延る始末です。

その意味でも、『人間の條件』で描かれる日本人の蛮行は、決して過去の悪夢ではなく、現代にも通じる問題でもあります。

 

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黒澤映画や特撮との接点

本題から脱線しますが、黒澤明の映画や特撮映画のファンの視点から見ても『人間の條件』や他の小林映画は興味深いです。

主演の仲代達矢が『人間の條件』の成功以降、小林映画の顔となり、黒澤明 (1910-1998) など数多くの名監督の映画に相次いで出演して日本を代表する名俳優となったことは言うまでもありません。その仲代の推薦で今作に出演した田中邦衛 (1932-) と、佐藤慶 (1928-2010) は、デビューして間がないにも関わらず二人とも既にキャラが確立していて驚きます。

映画の冒頭で初年兵に次々とビンタを浴びせる坂内上等兵役の植村謙二郎 (1914-1979) は従軍経験者で、黒澤明の『静かなる決闘』(1949) でも軍隊帰りの荒んだ男を好演していました。又、『ウルトラセブン』(1967-1968) 第9話「アンドロイド0指令」の玩具売りの老人 (チブル星人) も植村が演じていたことを割と最近になって知りました。

小野寺兵長役の千秋実 (1917-1999) は、『羅生門』(1950) など数多くの黒澤映画に出演しました。『七人の侍』(1954) の温厚な平八や、『隠し砦の三悪人』(1958) のコミカルな太平が印象的な千秋ですが、『人間の條件』では、梶の口にスリッパを押し込んだり、二等兵をいびったりする陰険な古兵の役でした。「上靴」の場面は強烈でしたので、よく覚えていましたが、千秋実が出演していたことはすっかり忘れていたので、黒澤映画でのとぼけた役柄とは正反対の極悪人ぶりに驚きました。『人間の條件』完結後に小林監督が撮った『からみ合い』(1962) でも、千秋は小悪人を好演していました。因みに、千秋実は『ゴジラの逆襲』(1955) に出演したことがあり、千秋の実子・佐々木勝彦 (1944-) も、『ゴジラ対メガロ』(1973)、『メカゴジラの逆襲』(1975)、『ゴジラVSキングギドラ』(1991) などに出演して、最近では『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019) の吹替もしていました。

鳴門二等兵役の藤田進 (1912-1990) は、1930年代には兵役の経験があり、戦時中には数々の戦意高揚映画で軍人を演じました。そのせいか、東宝特撮映画やウルトラシリーズでの長官役の印象が強いです。もっとも、『人間の條件』の鳴門二等兵は古兵の理不尽な仕打ちに激怒して殴り込んだりするなど、軍人というよりは黒澤明の『姿三四郎』(1943) で演じた豪放な感じを思い出させました。

野中少尉役の小林昭二 (1930-1996) は、『ウルトラマン』のムラマツ・キャップや、『仮面ライダー』の立花藤兵衛などの役で特撮ファンにはお馴染みです。私も子供時代に『ウルトラマン』と『仮面ライダー』に夢中でしたので、『人間の條件』で小林昭二が演じる野中少尉を見ても、どうしてもキャップや藤兵衛で見てしまいました(笑) とは言え、当時まだ29歳(!)でしたが、戦場で命令を下す場面では、温厚なムラマツキャップとは異なる職業軍人の迫力を感じさせました。小林昭二は、この後も小林正樹監督の『切腹』、『怪談』、『食卓のない家』(1985) に出演しました。

映画のタイトルバックに出てくる印象的なレリーフを制作したのは、著名な彫刻家の佐藤忠良 (1912-2011) です。佐藤も、1945年から1948年にかけて、『人間の條件・完結篇』のように、シベリアに抑留された経験があります。因みに、札幌第二中学 (現・北海道札幌西高等学校) に通っていた頃の佐藤は、後の作曲家・ 伊福部昭 (1914-2006) と、後の音楽評論家・三浦淳史 (1913-1997) と共に、美術サークル「めばえ会」を結成して、地元で絵画展も開いたそうです。伊福部昭は『ゴジラ』(1954) などの特撮映画や『ビルマの竪琴』(1956) や『座頭市物語』(1962) などの映画音楽で有名ですが、その本当の姿は、21歳のときに《日本狂詩曲》(1935) でチェレプニン賞第1位を受賞するなど、数々の名曲を残した作曲界の巨匠です。又、東京音楽学校 (現・東京藝術大学) や東京音楽大学の教授も勤めて、芥川也寸志 (1925-1989) や、松村禎三 (1929-2007) など数多くの名作曲家を育てた教育者でもありました。

 

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まとめ

約30年ぶりに『人間の條件』を再見しましたが、やはり圧倒的な映画だと改めて思いました。

年齢を重ねて知識が増えたことで、映画の歴史的背景や、作者が物語に込めたことをより深く理解できるようになったと思います。

更に、妻帯者となった今の私にとって、梶と美千子の今生の別れの場面には胸が張り裂けそうでした。戦争や軍隊という巨大な歯車の前に、如何に個人の幸福や生命が無慈悲に踏みにじられていくかを痛感します。

今、私達が生きている日本でも、自民党は安保法による自衛隊の海外派兵や、軍事費の拡大を強引に押し進め、憲法の改悪まで企てています。徐々に戦争に向かおうとするかのような焦臭い動きが続いている今だからこそ、小林正樹の映画は必見です。

(敬称略)

 

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参考文献

伊福部昭綴る 伊福部昭 論文・随筆集』 伊福部昭、ワイズ出版、2013年

映画監督 小林正樹』 小笠原清、梶山弘子 編、岩波書店、2016年

未完。 仲代達矢』 仲代達矢、KADOKAWA、2014年

仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』 春日太一、文藝春秋、2017年

 

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